平成28年度は、平成27年度に発行したディスカッションペーパーの内容を、日本経済学会で発表した。そこで討論者の先生から頂いたコメントをもとに、3タイプの主体を想定した片側不完全自己認識に追加的な分析を行った。そこでは、n(≧2)タイプの分析では困難であった、すべての起こりうる均衡を導出し、複数均衡が生じるケースがあるのか調べた。それにより、①学習による主体の過大評価行動によって下層のタイプの結婚を妨げる均衡と、②過小評価行動があるが下層タイプの結婚を妨げない均衡の、複数均衡が生じることを示された。 なお、過小評価行動がある場合、それにより下層タイプの結婚を妨げる事は常に生じないことも確認されている。これは例えば、Highタイプの女性が学習中であるためにMiddleタイプ男性を受け入れ(過小評価行動)、それを受けてMiddle タイプの男性がMiddleタイプ女性を断るようになると、彼のHighタイプ女性へのオファーは「あなたはHighタイプですよ」というシグナルとなり、Highタイプ女性の学習を促し、結局Middleタイプ男性が断られてしまうためである。 また、複数均衡の意味は以下のとおりである。該当するパラメータ範囲では、不完全自己認識主体が、結婚市場の人たちのタイプ分布に基づいて、自分のタイプに対する過大評価(完全情報時に受け入れる相手を断る)または過小評価の行動(完全情報時に受け入れない相手を受け入れる)のいずれかを取る可能性がある。そして、結婚市場にいる人たちが、この不完全自己認識の主体が過大評価行動をとるのか、過小評価行動をとるのかという予想ことによって、①または②のいずれかの均衡が実現する。 これらの結果を受けて、3タイプの主体に限った分析を論文として取りまとめた。
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