平成26年度は、「個々のソフトウエア開発者が、オープン・ソース・ソフトウェア(OSS)に対して異なる品質水準を望む場合、OSSは、どのような水準で供給されるのか」について、公共財供給ゲームを基礎とした簡素なモデルを構築して検証した。本研究で対象となる状況は、例えば、どのような機能を、どの水準でOSSに搭載するかについて、技術者が異なる選好を持つ場合である。
モデルは、非負の整数単位で供給可能な公共財供給ゲームを基礎とした。本ゲームでは、0単位から1単位、1単位から2単位、2単位から3単位...というように、公共財の供給1単位毎に、限界貢献量(marginal contribution)を各プレイヤーが表明する。均衡分析の結果、(1)各プレイヤーが、公共財に対して同程度の選好を持つ場合には、パレート効率的な公共財供給が、ゲームの均衡で実現可能である一方で、(2)強く異なる選好を持つ場合には、パレート非効率的な公共財供給のみが、ゲームの均衡において実現することが、明らかになった。また、(2)について、パレート非効率性の原因は、公共財の過剰供給にあることが明らかとなった。
この結果がOSSの自発的開発動機の解明に与える含意は、ソフトウエアの開発者の間に、OSSの品質水準について極度に異なる選好が存在する場合、さまざまな機能を備えた高品質なOSSが供給される可能性があるが、それは、社会全体から見て効率的ではなく、過剰な水準となる可能性があることである。本研究の結果は、現実世界において高品質なOSSが供給されているが、必ずしもそれは、社会的に効率的な水準で供給されているとは限らないことを示唆する。現在、本研究の成果を取りまとめ、英文査読誌への投稿準備をしている。
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