本研究課題では、心理学やマーケティングでは多数の研究蓄積があるにもかかわらず経済学では十分に分析されてこなかった、選択肢間にトレードオフがあるときに生じる「内的葛藤」や、選択肢を確率的に選択する「確率的選択」などの心理学的効果が意思決定のタイミングに及ぼす効果の分析を中心に研究を進めてきた。 まず、確率的選択に関しては、事前に決定される心理的状態が意思決定者のメニューからの選択に影響を与えるという公理(perfectly correlated mixtures of menus)を置くことにより、先行研究で分析されてきた摂動(trembling-hand)や注意力の限界(limited attention)などを含む広いクラスの確率的選択行動を公理的に基礎づけられることを示した。この結果は論文「Anticipated Stochastic Choice」としてまとめ、平成24年度から25年度にかけて国際学術雑誌への投稿を行い、1誌からは却下された後、1誌から改訂要求を受けており、現在再投稿を終え、再審査を受けている。なお、その間、各学会やセミナーでこの論文の報告を行っている。 また、内的葛藤の下での意思決定時間の公理的基礎付けの研究では、2つの選択肢の間にトレードオフがない場合には即時の選択が可能になる一方、トレードオフがある場合は即時に選択を行うことができないという公理を置くことにより、選択肢の間の葛藤(conflict)を定量的に扱うことのできる選好表現を提案した。この結果は論文「A Multi-attribute Decision Time Theory」としてまとめ、平成24年度から25年度にかけてエコノメトリックソサエティー・ヨーロピアンミーティングなどの各セミナー・学会で報告を行った。
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