研究実績の概要 |
平成27年度中は、輸出企業の直面する流動性・金融制約に影響を与えるマクロショックとそれに対する企業行動の反応および国際相対価格へ与える効果に関連し、研究の発展がみられた。その一つに、本研究プロジェクトに関連する"Product Variety, Firm Entry, and Terms of Trade Dynamics"という論文での研究を大幅に発展させることができたことが挙げられる。本論文では、自国のマクロレベルでの労働生産性に対するショックが交易条件に与える影響について、企業の異質性と内生的なマークアップ決定行動を仮定した動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルを用いて、実証的・理論的に分析してきた。前年度までに得られていた、このモデルの重要なインプリケーションは、金融市場の統合レベルが異なる場合は、内生的マークアップ決定行動を仮定すると、交易条件の反応がそれを仮定しなかった場合と比べて異なるものとなるというものである。27年度中には、主に本モデルが持つ他のマクロ経済変数へのインプリケーションについて理論的に考察し、先行研究をサーベイしながらそれらで得られていた結果と詳細に比較する作業を行った。今後、さらに実質為替レートなど他の国際相対価格の変数への影響をより詳細に分析し直した上で学術誌へ投稿する。また、本論文では金融制約に直面する輸出企業を仮定することはできず、金融市場の統合レベルについていくつかの仮定を置いたもとで分析することにとどまっていたが、ミクロ的に輸出企業についてどのような理論的仮定を置くことが望ましいかをさらに検討した。他に、27年度中には、国際相対価格と輸出企業の直面する流動性・金融制約の関係について前年度までに行った理論分析を実証分析へ発展させるため、物価指数と金融指標を組み合わせるデータベースを構築する作業を行ったが、この点は今後も研究を続行していく必要がある。
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