研究課題/領域番号 |
24730174
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
近郷 匠 福岡大学, 経済学部, 講師 (70579664)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 提携型ゲーム / 効率 / 公平・衡平 / オークション |
研究概要 |
ネットワークなどの共用施設を形成し、その維持・形成費用を利用者間で分担する問題は、社会生活を行う我々にとって重要な問題である。このような集団内における費用の分担問題に対し、効率的かつ公平・衡平な分担ルールを理論的に考察し、費用分担の不備に端を発する紛争の解決に資することが本研究の目的である。 こういった問題の参加者はその能力や共用施設に対する需要などがそれぞれ異なることが想定される。したがって、そういった参加者間の異質性を踏まえ、適切な効率性、公平・衡平性を問題ごとに吟味する必要がある。今年度は、まず研究実施計画に基づき、現実社会の余剰配分問題にしばしば応用される提携型ゲーム理論に基づいて考察した。特に既存の研究で様々に定式化、分析されている種々の公平・衡平性の概念の比較、検討を通じて、それらの類似点、相違点を分析し、新たな公平・衡平性の概念の定式化に取り組んだ。 また、ネットワークの一例として挙げられる道路などの建設工事の施行者を決定する際に現実にもしばしば行われるオークションについても、衡平性の観点から理論的考察を行った。具体的には、最も高額な入札者が自身の表明した入札額を支払い、それと引き換えにオークション対象を入手する形式の1位価格オークションについて、効率性、衡平性などの望ましい性質によってそれが一意に特徴づけられることを明らかにした(安達剛氏との共同研究)。 こういった研究に関連する分野は現在世界的にも研究が盛んである。Society for Social Choice and Welfareの開催した国際会議や、日本経済学会春季・秋季大会などの国内外の学会・研究集会に参加することで、それらの最新の成果を把握することにも努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では最少費用木問題をはじめとした集団内での共用施設の費用分担、あるいは余剰分担問題について効率性と公平・衡平性に注目することで、参加者が不満をもたない適切な分担ルールを達成することを目的としている。 提携型ゲーム理論において、(申請者自身の過去の研究を含めて)過去に研究されてきた公平・衡平性に関連する概念には、異なる参加者間の分担額の差に注目しているものが多い。したがって、これとは異なる手法で参加者間の公平・衡平性を定式化することで、既存の結果と比較可能でかつ、新たな基準を提案できる。それを基準とした分担ルールを提案しそれを吟味することにより、研究目標の実現に近づく。 また、適切な費用分担ルールと相互に深く関連する、複数の参加者の間での公平な権利分担問題であるオークションについても、効率性と衡平性という同一の観点から、新たな結果を得ることができている。この成果自身、該当分野における重要な貢献であり、また、その成果が効率的かつ公平・衡平な分担を考えるにあたっても、直接的に役立てられることが期待される。 以上から、現状では、当初の研究目的に沿って順調に研究が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
応募時の研究実施計画に基づき、平成24年度の研究業績を発展させながら、当初の研究目的の達成を図る。具体的には、提携型ゲームにおける既存の公平・衡平性の吟味により得られた新たな公平・衡平性を用いて、新たな観点から配分ルールの正当性を議論する。 また、本研究の主な対象としている最少費用木問題をはじめとした費用分担問題は、より広い意味では集団での意思決定問題の一つである。そういった問題において公平・衡平なルールを制定することの困難さという、その背後にある社会問題としての本質的な構造は、平成24年度に取り組んだオークションなどにも共通し、現実社会の重要な問題と言える。効率性と公平・衡平性という共通の観点から、これらの互いに深く関連する問題へも視野を広げることで、現実社会でのより多様な問題へ示唆を与えることが可能になり、また当初の対象である費用分担問題の考察にも有益となるであろう。 さらに、引き続き、国内外の学会・研究集会に定期的に参加し、関連研究分野を含めた最新の研究動向を把握することに努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度中(当時、申請者は早稲田大学政治経済学部助手)の本研究の応募後に異動が決まり、平成24年度より福岡大学経済学部講師(平成25年4月に同准教授)と身分の変更があった。このような状況の変化に伴い、主に日程面を理由として、応募時に検討していたいくつかの海外出張(国際会議への参加)を見送る、あるいは日程的に問題のないものへと変更した。またその分、日程面でより柔軟に対応できる、国内の関連研究集会への参加を増やした。さらに、勤務地の変更(東京→福岡)により、国内外の出張にかかる旅費(交通費)に変更があった。これらを理由として、予定していた研究費に若干の繰り越しが生じた。繰り越し額は平成24年度配分額の1%程度にすぎないため、翌年度以降の研究遂行にあたり、大幅な研究費使用予定の変更の必要はない。
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