研究課題/領域番号 |
24730174
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
近郷 匠 福岡大学, 経済学部, 准教授 (70579664)
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キーワード | 提携型ゲーム / 公平性 / 効率性 / 公理的特徴づけ |
研究概要 |
通信や交通、人間同士や組織同士の相互関係など、社会の様々な場面で形成・活用されているネットワークを主として、複数の経済的主体が協同し、それによって発生する便益および費用を互いに納得する形で享受・分担する方法を理論的に考察することが本研究の目的である。一例を挙げると、複数の利用者間で互いのコンピュータをネットワークで接続することにより利用者の利便性が高まる。その一方で、このネットワークを敷設・維持するには費用が必要であり、その費用は通常、利用者から適切な形で徴収する。こういった便益およびそれに伴う費用の配分は、ネットワークのみならず、社会における集団的意思決定全般において重要であり、便益や費用の適切な配分なくしては、長期にわたっての協同は維持されない。 そのような社会的な問題の解決を目的とし、具体的に適切さの基準として、分配に無駄がないという効率性、および、互いに不満をもたないという公平(衡平)性に注目する。特に後者に関して、ネットワーク形勢費用分担問題でもしばしば用いられる提携型ゲーム理論における新たな性質を定式化した。この性質は、異なる状況における同一個人の配分の差ではなくその割合を他者と比較することを基礎とし、さらにその集団全体での積に注目するという点で新規性に富む。それを用いてproportional値という既存の配分方法を、Shapley値や均等分配値の既存の特徴づけと対応する形で、新たな視点から特徴づけた(上條良夫氏との共同研究)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、現実社会において重要である様々な集団的意思決定問題において、効率性や公平性(衡平性)を中心とした解決策の考察を目的としている。平成24年度から25年度にかけて取り組んだ提携型ゲーム理論に関する論文は海外の査読付き専門誌Theory and Decisionへの掲載が決まっている。また、平成24年度に取り組んだ、集団的意思決定問題の一つであるオークションにおける、効率性、公平性に関連する公理を主とした第1価格ルールの特徴づけの論文は、既に平成24年度中に海外の査読付き専門誌Economic Theory Bulletinへの掲載が決まっており、平成25年度中に公刊された。 また、平成25年度は主に国内の関連する研究集会に積極的に参加し、関連する分野も含めた最新研究の把握にも努めた。本研究が考察対象とするような問題は経済学のみならず、数学、情報学、工学などの分野でも研究されているため、そういった分野の研究集会にも幅広く参加することで、問題への様々な角度からのアプローチに触れ、問題自体への理解もより深まった。 したがって、研究は当初の目的に沿って順調に進んでいるといってよい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究採択以前の自身の過去の研究や、平成24および25年度の研究を踏まえて、研究のさらなる進展を図る。具体的には、まずは既に得られている成果の精緻化が挙げられる。平成25年度に提携型ゲームにおいて解の特徴づけに用いた、本研究で新たに定式化された公平性の概念はいまだに明らかでない側面もあり、その吟味を通じてその役割や、他の概念との関係がより明確になる可能性がある。次に、既に得られている結果の関連するモデルへの援用が挙げられる。これについてはただの技術的な援用にとどまることなく、概念の本質的な援用となることを目指している。さらに、本研究とは別のプロジェクトとして自身が考察した、研究者の業績を適切に評価する指数の特徴づけとの関連を吟味する。評価の公平性という観点やモデルの取り扱いの点で、本研究とも密接に結びつく可能性がある。 また、引き続き国内外の学会・研究集会には積極的に参加する。前年度同様、経済学以外の分野が主催する大会にも、研究内容と関連する限り参加を検討する。多角的な視野から関連する研究をより多く把握し、それらを自身の研究に活かすことを模索する。さらに、自身の研究成果もまとまった形で報告できるよう鋭意努力する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度も記入したことだが、本研究の応募時(平成23年度)には、申請者は早稲田大学政治経済学部助手であった。しかし、本研究の採択時(平成24年度)には、福岡大学経済学部講師(平成25年度に同准教授)に着任した。さらに平成25年度は着任2年目にあたり、前年度(平成24年度)と比較して担当授業数が増加し、またその他の学内業務も増加した。このような研究機関の変更および職位の変化の結果、主に海外で開催される国際会議への参加について、応募時の計画の実施が日程的に困難になった。したがって、その代替として国内で開催される研究集会への参加を増やした。その結果、若干の繰り越しが発生した。 発生している繰越額は平成25年度予算額の3%弱である。ただし、平成25年度のみでの繰越額は平成24年度のそれと比べて減少しており、また、その額は平成25年度予算額の1%未満である。したがって、研究最終年度である平成26年度の研究計画に大幅な変更はない。
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