近年の情報通信技術の発達は,過去には実現しえなかった規模での複数経済主体の集合的行動を可能にしている.個々の主体が自身の利益のみに関心がある時,複数の経済主体による集合的行動は,その相互が利益を得られるように配慮することが重要である.ネットワークの形成によって得られる便益あるいはそれに必要な費用の分担などの,複数の経済主体の集合的行動によって生じる便益・費用の適切な配分にかんして,提携型ゲーム理論やミクロ経済学に基づいた理論的な考察を試みた. 前年度は特に,ある経済的状況が提携型ゲームによって表現された際に,どのような提携型ゲームの解を適用した余剰配分が適切なのかという視点に立って研究をすすめた.その中でも,特に公平性に注目した公理に依拠した提携型ゲームの解の特徴付けを考察した.その一方,ある経済的状況を提携型ゲームとして表現する際に,各主体のその状況への影響力などを適切に評価しなければならない.したがって,今年度はある状況を適切に評価するという視点から,関連するモデルにおける様々な状況評価の手法についてまで射程を広げ,それらについて公理的な議論を考察した.より具体的には,申請者が過去に本研究とは異なる研究で考察した研究者の業績評価指標に関して,提携型ゲーム理論の研究との類似性に注目し,提携型ゲーム理論の研究でしばしば考察される公平性概念などの様々な公理の援用を試みた.結果としては,業績評価の文脈の既存の研究成果を踏まえつつ,特徴付けに有用と思われるいくつかの基礎的な成果を得ている.
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