研究課題/領域番号 |
24730183
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
武藤 秀太郎 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (10612913)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 民主主義 / マルクス主義 / 中国 |
研究概要 |
2012年度は、研究課題である1900年から20年代における日本と中国の経済思想交流史、具体的には福田徳三と胡適や郭沫若、李大釗ら中国知識人にみられた思想交流について、2012年6月におこなわれた日本経済思想史学会大会で、「福田徳三と中国知識人」と題し、報告をおこなった。また、同年8月にチェコのプラハ大学で開催された国際シンポジウム "Japanese Economic Thought: Time and Space"でも、"Fukuda Tokuzo and Chinese Intellectuals"という題で発表をおこなった。日本経済思想史学会大会では、福田徳三の思想に関する専門家も多く参加していたこともあり、報告内容を発展させてゆく上で、多くの貴重な情報を獲得することができた。また、プラハでのシンポジウムでも、ヨーロッパや中国の研究者とさまざまな意見を交わすことができ、いろいろと有益なアドバイスをえることができた。 2012年度の後半は、こうした前半におこなった報告でえられた知見をもとに、国内や海外で資料調査、収集をおこなった。とくに、2012年12月から2013年1月にわたり、上海、および南京でおこなった資料調査では、福田徳三が1922年におこなった中国旅行の足取りを追跡するなどし、これまでほとんど知られていなかった事実をいろいろと発掘することができた。これらの調査で新たにえられた資料などをもとに、2013年3月に国士舘大学でおこなわれた国際シンポジウム「日本の経済思想 ―近世・近代における経済思想の連続・非連続」で、「大正ユートピアと消費主義」という報告をおこなった。このシンポジウムでも、国内外の研究者と議論を交わすとともに、自己の研究成果を広くアピールすることができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度の研究計画として、「黎明会活動期を中心とした福田徳三の経済・社会政策論が、中国の思想界にどのように受けとめられ、変更を余儀なくされたのか、とくに福田の主張が、胡適にいかなる作用をおよぼしたのか」というテーマを掲げたが、これまで順調に進展しているといえる。 まず、書誌的な作業として、1918年から1922年までにおけるま福田に関する雑誌新聞記事のチェックをおこない、先行研究に見られた欠落部分をおぎなった。とくに、福田徳三と胡適との関係については、これまでの研究ではほとんど論じられることがなかったが、胡適と福田の日記や論文を精査し、相互につき合わせることにより、両者の1920年代における無視できない思想交流を明らかにすることができた。また、『申報』や『民国日報』、『晨報』など、中国で刊行されていた多くの新聞や雑誌を調査し、福田徳三の言動に対する中国のさまざまな反応を確認することができた。 「研究実績」の欄でも触れたが、2012年度は、当初予定していた1回を上回る計3回の学会・シンポジウム報告をおこなった。これらの報告で得た多くの知見、アドバイスをもとに、研究成果をさらに広く発信すべく、2012年度後半より、論文の作成にとりくんでいる。2012年度末時点で、この論文を書き終え、学会誌に投稿し、2013年度内に掲載される予定である。 さらに、2013年度の課題として掲げた「堀江帰一の銀行・貨幣制度論が、中国の為政者、ひいては中国の金融政策にいかなる影響をあたえたのか、また堀江の思想が中国での経験、および中国の知識人らとの交流を経て、どのように変化したのか」というテーマについても、2012年度に資料調査、収集を実施した。その意味では、2012年度は当初の計画以上に研究をすすめることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は、これまでの研究計画の通り、福田徳三と並ぶ、1910-20年代を代表する経済学者であった堀江帰一の銀行論や中国でおこなった貨幣制度に関する講義が、梁啓超や張公権らにどのようにうけとめられたのかについて、研究を進めてゆく。 本テーマにとりくむにあたっては、まず堀江に関する書誌的な調査をおこなう必要がある。堀江の生涯にわたる著作としては、彼が亡くなった翌年に刊行された『堀江帰一全集』全10巻がある。だが、この『全集』に収録されているのは、単行本、および代表的な論文のみで、すべての著述を網羅しているわけでない。初出と再録の異同なども、不明である。そのため、当時の雑誌や新聞などのメディアを精査し、堀江の執筆状況や事績を解明してゆく。 また、堀江のもとで、どのような人材が学んでいたかなど、中国人留学生との関わりについても調べる必要がある。堀江は、慶應義塾大学のほか、政法学校でも「財政原論」の講義を担当していた。とくに、のちに中国銀行総経理、および中央銀行総裁となった張公権は、堀江の経済思想が中国の財政・金融政策におよぼした影響をさぐる上で、重要である。この堀江と中国留学生との関連について、中国における先行研究もふまえつつ、全体像を明らかにしてゆく。 これまでの調査で、堀江が北京でおこなった幣制改革についての講演をまとめた『財政金融学会講演録』は、北京の国家図書館に所蔵されていることが分かっている。また、堀江の講演内容は、『晨報』のほか、『銀行週報』にも掲載されたようである。これら資料の確認、および異同の有無などを調査するために、2013年度は、北京と上海へそれぞれ一週間ほど調査に赴く予定である。また、できれば研究成果を2013年度の後半に、学会や国際シンポジウムなどで報告し、内外に広く発信してゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度は、設備備品費として、堀江帰一に関連した資料の購入にそれぞれあてる。海外の研究書、とくに中国語の資料は、全国的に図書館の所蔵も少なく、本研究に必要なものをそろえる必要がある。消耗品費としては、中国語のデータ入力の効率化を図るために、中国語関連のソフトウェアを購入する。また、現在利用している中国語の電子辞書に内蔵されている内容が古いため、最新のものを購入する。 国内旅費に関しては、主に国会図書館や早稲田大学図書館を利用するために、東京での調査を予定している。海外旅費は、中国上海・北京での資料調査で、それぞれ計2回おこなう。当時の雑誌・新聞などの資料は、中国でしか閲覧できないものも多く、ある程度期間をかけて調査する必要がある。交通費は、北京、上海いずれも往復8万円、宿泊費は1日8千円ほどを予定している。 その他として、おもに歴史的資料を収集するために複写費を算定している。とくに貴重書の複写は、高額であり、5万円分の使用を予定している。
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