本研究計画の目的は,代表的な自由主義思想家フリードリッヒ・ハイエクの学説を歴史的に考察し,それを二十世紀アメリカのオーストリア学派における発展史に位置付けることにあった。これについて,最終年度に得られた成果を,以下に整理する。 大きな成果は,最終年度開始直前の2014年3月に単著『ハイエクの経済思想:自由な社会の未来像』(勁草書房)を刊行できたことと,それを受けた議論の彫琢である。同書で論じた内容によれば,ハイエクの代表的著作『隷属への道』のヒットを通じて,イギリス由来の自由主義が戦後のアメリカで保守思想に変容し,かれの意図とは反対に,リベラル思想の大衆化を促す契機となった。 またハイエクは,個人の自由だけでなく社会制度としての秩序も重視しており,そのことは共有知識やルールの進化に市場経済の存立基盤を見出すことで示されている。このようなハイエク解釈は,かれの自由主義を現在の「ネオリベ」の源流として捉えるのではなく,同時代の欧米の自由主義やリベラルと対比させることで可能となった。同書では,最終的に発展的な考察として,「知識の豊かさ」を目指す「開かれた政府」という政府観を論じた。これにより,新自由主義か福祉国家かという前世紀の対立軸とは違う社会像の提示を試みた。 このような一連の考察と,同様の関心を持つ研究者との議論を通じて,アーカイブワークに基づいた従来の経済思想史の研究手法を基礎としつつ,思想の大衆化という新しい観点から経済思想の発展を解明するというアプローチを開拓した。以上のことから,最終年度においても当初予想していた以上の研究成果を得られたと考えている。
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