研究課題/領域番号 |
24730188
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研究機関 | 群馬工業高等専門学校 |
研究代表者 |
加藤 健 群馬工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (70612399)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アメリカ型福祉国家 / 経済思想 / Social Security / J. R. Commons / E. E. Witte |
研究概要 |
本研究の目的は、アメリカの社会保障制度の思想的な連続性あるいは断続性を検討することによって、アメリカの福祉国家プログラムの独自性を明らかにすることにある。 平成24年度においては、夏季休業期間にアメリカ・ウィスコンシン州のHistorical Societyにおいて“John R. Commons Papers”や“Edwin E. Witte Papers”などの一次資料を調査した。とりわけニューディール期の社会保障法の成立に影響を与えたE.E.ウィッテの思想を内在的に再構成するため、(1)1910年代~30年代のJ.R.コモンズやアンドリューズ、またウィッテの弟子コーヘンなどウィスコンシンに関係する人物との往復書簡、(2)1934年~50年代のワシントンの社会保障委員会内部のやり取り、(3)コモンズの著作のドラフトなどを中心に資料の把握と複写を行った。 さらに、ウィスコンシン州失業補償法(1932年)の成立・運用におけるコモンズのアイディアの連続面・断続面を確かめるため、Memorial Libraryのみに所蔵されている未刊行のラウシェンブッシュ夫妻の聞き取り資料“Our "U.C." story, 1930-1967”を調査した。 目下これらの資料の解読を進めているが、平成24年度においては、アメリカの社会保障法に関する従来の研究においてほとんど取り上げられることがなかったウィッテが、経済保障委員会(CES)内部において主導的な立場にあったこと、また失業保険・老齢年金の各制度の実現可能性を重視するウィッテのスタンスが、コモンズやウィスコンシン理念から大きな影響を受けていたことを明らかにした。この研究成果の一部は、2013年3月に単著論文「アメリカ社会保障制度の成立を支えた思想の展開―E.E.ウィッテとウィスコンシン理念」(『同志社アメリカ研究』第49号)として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「研究の目的」に記載したように「アメリカ社会保障制度の成立を支えた思想、とりわけJ. R. コモンズ及びE. E. ウィッテの思想を内在的に再構成し、彼らの思想的位置を明確にすること」を目的としている。現在までの達成度を、この「研究の目的」に照らして評価すれば「おおむね順調に進展している」といえる。その理由は、次の2点にある。 (1)一次資料の把握と収集。平成24年度には、我が国において入手不可能な一次資料や未刊行の資料をアメリカ・ウィスコンシン州にあるHistorical Societyにおいて把握・収集することができた。 (2)投稿論文の掲載。これらの入手した資料の検討により、従来の研究では明らかにされていなかったコモンズとウィッテのつながりや、特にウィッテ自身の思想的な起源を明確にすることができた。この研究成果の一部を2013年3月に論文として発表した。 平成25年度には、これらの研究成果をもとにアメリカ福祉国家プログラムの独自性を浮き彫りにするため、ウェルフェアを実現させるアメリカ社会の在り方に対するコモンズ及びウィッテの見解にさらに肉薄していく。もちろん本研究が直接対象とした思想家のみをもってアメリカ福祉国家の全体像を完全に把握できるとはいえないが、テクストの緻密な解釈や国内外の研究者との活発な意見交換を実施し、ニューディール期以前の重層的な思想の蓄積をより一層明らかにできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られたウィッテの思想的起源とコモンズやウィスコンシン理念の影響に関する研究成果を基に、アメリカにおいて入手した一次資料の把握と解釈をより一層進め、コモンズ及びウィッテに関する論文を執筆する。 コモンズに関しては、1910年代から持ち続けた労災補償・失業補償の制度設計に見られるリスク転嫁による「予防」のスキームが、1920年代以降、とりわけLegal Foundations of Capitalism(1924)で展開される市場経済に対する法・ルールの在り方とその他の補完的な制度に対する意味への関連性を理解した上で、ニューディール期の社会保障制度に関する思想との連続性・断続性を明らかにする。 また従来の研究においてもほとんど知られていないウィッテの思想を明らかにするため、“Witte Papers”の往復書簡を中心に、後にSocial Security Perspectives(1962)として纏められた論文集や経済保障委員会の活動を回顧したThe Development of Social Security Act(1962)などともあわせて検討する。 ウィスコンシンの系譜における思想的な連続面と断続面の研究成果の一部は、平成25年6月に開催される北米の経済学史学会であるHistory of Economics Society(HES)において発表し海外の研究者と意見交換を行う。平成25年度後半においては、これらの研究を論文として纏め、社会政策学会あるいは経済学史学会の学会誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「該当なし」
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