北欧やイギリスは20世紀型福祉国家の標準と見なされてきたが、アメリカもまた1930年代のニューディール期に独自の福祉型のプログラムを推進した。しかし日本では、アメリカの社会保障制度に見られる思想的な連続性あるいは断続性を検討する研究は少ない。本研究の目的は、アメリカの社会保障制度の起源に重要な影響を与えたと考えられるJ.R.コモンズおよびE.E.ウィッテの思想を内在的に再構成することによって、アメリカ型福祉国家の誕生における彼らの特徴を確かめることにある。 平成24年度には、1930年代に本格化したアメリカの社会保障制度の展開を支えた思想的基盤を確かめるため、ウィスコンシンに拠点を置いたコモンズの系譜が、ニューディール社会立法に影響力を及ぼしたウィッテにどのように継承されたのかを中心に検討した。1935年社会保障法の成立過程において、経済保障委員会の中心的立場にあったウィッテは、コモンズによるグッドウィルを基礎としたリスクに備える法的な処方や「その場に応じた程よい(reasonable)」立法・規制を形成していく「ウィスコンシン理念」から大きな影響を受けていたことが明らかになった。 平成25年度には、引き続きコモンズとウィッテの社会保障構想に関する研究を進めた。その結果、ウィッテの特徴は、雇用関係の当事者間や州および連邦政府間で失業補償システムの可能的なプランを列挙し、制度面と運用面および当時の経済状況の下での実行可能性を探った点にあった。また、コモンズの経済思想の特徴は、法的な処方を「その場に応じた程よい価値」の実現であると司法が判断することによって、結果的に労使双方の自由が拡大し彼らのウェルフェアの改善を目指す点にあった。これらの研究成果を、北米経済学史学会及び単著論文として発表し、本研究のまとめとして海外ジャーナルへの投稿論文の執筆を目下進めている。
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