本研究では、国際的な市場統合の進展がグローバルな産業立地パターンと各国の資源配分・所得分配・経済厚生に与える効果について考察した。研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、以下の(1)から(3)に示される通りである。 (1)クールノー寡占型の中間財市場を伴う小国モデルにおいて自由参入均衡における上流企業の数と社会的に最適な企業数の水準とを比較した。従来の寡占理論で知られる過剰参入定理とは対照的に、本分析では過少参入の可能性が示された。 (2)独占的競争型の中間財市場を伴う二国モデルにおいて中間財輸送費の低下の効果を分析した。本分析では、すべての工業生産が高賃金国に集積した状況を出発点として、中間財輸送費の低下が上流・下流部門の立地と各国の所得分配・経済厚生に与える効果を分析した。本分析では、当初、高賃金国では輸送費低下により産業空洞化が生じるが、輸送費が十分に低くなると低賃金国に移動した中間財生産の一部が高賃金国に回帰することが示された。この分析結果は、近年の先進国・途上国間の貿易パターンの変化とそのメカニズムを理論的に解明するものであり、本研究の重要な成果の一つである。 (3)独占的競争と生産技術の国際的格差を伴う二国モデルにおいて貿易自由化の効果を分析した。本分析では、各財部門への家計の支出シェアが価格とともに変化する状況を想定し、かつ、対外的に開放された部門と閉鎖された部門が併存する状況(半閉鎖経済)を出発点として、自由貿易体制への移行が各国の経済厚生に与える効果を分析した。本分析では、半閉鎖経済から自由貿易への移行に伴う各国の経済厚生の変化が支出シェアの可変性に大きく依存することが示された。これは従来にはない新しい視点からの分析であり、その学術的意義は高いと考えられる。 なお、最終年度である平成26年度は、(2)と(3)の分析を再点検し、さらなる精緻化に取り組んだ。
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