当該年度は、GCC諸国に展開するイスラム銀行の費用構造について、市場環境の変化への対応といった点から分析を行った。その研究成果について、国際学会にて発表を行った。具体的には、費用関数の推定を通じて、規模の経済性や範囲の経済性を計測した。そして、推定結果およびイスラム銀行への聞き取り調査の結果も踏まえ、イスラム銀行の財務体質がイスラム銀行部門の費用に与えた影響について評価した。 これら考察結果から、以下のような結果が明らかになった。通常の銀行よりも経営規模の小さかったイスラム銀行は、固定資産や設備の拡充による経営資源の拡大を通じて、イスラム金融手法による資金運用業務に積極的に取り組んできた。しかし、GCC 諸国のイスラム銀行部門では、規模の経済性を観察することができなかった。こうした結果の背景について、これまでの聞き取り調査の結果も踏まえ、①イスラム銀行部門全体における規模の経済性に対して、個別銀行や国といった特定の要因が負の影響を及ぼした可能性があること、そして②通常の銀行と比べた場合、イスラム銀行の経営規模は小さく、そもそも規模の経済を享受できる段階に達していないことが明らかとなった。また、範囲の経済性に関しては、その存在を確認することができなかった。その背景として、GCC諸国における金融制度がイスラム銀行による業務の多角化に向けた取り組みに対して何らかの負の影響を与え、例えば、特定の金融規制ないし金融制度がイスラム銀行にとって必ずしも望ましい内容とはなっていない可能性が示された。さらには、銀行の財務体質がイスラム銀行の費用に与える影響に関しては、財務体質の代理変数である総資産に占める自己資本の割合が上昇することは費用の上昇をもたらすことになった。その背景として、イスラム銀行部門の費用効率性が必ずしも高くない可能性があることが示された。
|