これまでの分析は日本のデータを利用したものだった.平成26年度は日中韓の国際比較の分析へと拡張を試みた.具体的には,輸出と雇用の関係に注目し,産業構造の変化を通じた両者の関係の変化について分析した.また東・東南アジアの新興国の一つ,インドネシアも分析の対象とした.分析には,WIODと呼ばれる国際産業連関表のデータベースを利用した.この成果を国際的な学会で報告した.
分析の主要な結果は大きく四つある.第一に,経済全体でみると,輸出によって生み出される雇用は日中韓の三か国で拡大していることである.第二に,産業レベルで見ると,特に機械関連産業において,輸出に依存する雇用の割合が高くなっている点である.第三に,2009年の日韓において,中国の最終需要への依存が,米国の最終需要への依存を上回っている点である.この結果は,中国の最終需要の影響が米国のそれを凌駕しつつあることを示唆している.
そして第四に,日中韓インドネシアのいずれにおいても,非製造業の雇用の一部が輸出に依存しているという点である.非製造業は非貿易財を扱っていることを踏まえると,この結果は,産業間のリンケージを通じて,製造業(貿易財産業)の輸出が非製造業の雇用に強く影響していることを意味している.言い換えれば,輸出とは直接かかわりを持たない非製造業の労働者も,産業間のリンケージを通じて輸出に依存しており,その規模は無視できないほど大きい.このため,輸出に伴う潜在的なリスクを考えていく上では,自分の属する産業(企業)がどの程度輸出に依存しているかだけでなく,自分の顧客(あるいはその顧客)がどの程度輸出に依存しているのかを見ることが重要と言える.
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