研究実績の概要 |
本研究は、企業結合について実証的厚生評価を行うためのモデルを構築することを目的としている。具体的には、動学寡占モデルの枠組みを利用し、企業の資本調整や参入退出を明示的に取り込み、従来の静学分析では取り扱うことができなかった企業結合に起因する問題について分析できる道具を開発する。そして、新たに開発された実証モデルを用いて、現実に発生した合併事例について、経済厚生への影響を定量的に示し、合併認可の事後評価を実施する。 これまでの研究活動では、日本のセメント産業で起きた合併を実証研究対象として、実証モデルを構築し、セメント産業のデータを用いて、モデルのパラメターを推定し、推定されたパラメターを用いて、反事実実験を行い、合併の厚生分析を行った。 具体的には、Ericson and Pakes (1995, Review of Economic Studies)の動学寡占モデルを応用し、セメント産業における企業の供給施設廃棄行動をモデル化し、現実のデータからモデルのパラメターを推計して、合併が起きた現実の市場と合併が起きなかった仮想的な市場を反事実実験によって比較した。その反事実実験により、セメント産業で起きた合併は施設廃棄を促し、その施設維持の固定費が削減され、さらにシナジー効果を生み出し生産者余剰が増加したことが明らかになった。一方で、消費者余剰は合併による企業数減少に起因する価格上昇から損なわれた。全体では、消費者に対する反競争的な効果はあったものの、社会厚生が改善されたことが示された。 研究成果は、Royal Economic Society、Eurasia Business and Economics Society主催の学会で報告を行った。
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