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2012 年度 実施状況報告書

自殺の二次医療圏データの計量経済分析

研究課題

研究課題/領域番号 24730203
研究機関政策研究大学院大学

研究代表者

池田 真介  政策研究大学院大学, 政策研究科, 助教授 (90598567)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2014-03-31
キーワード国際情報交換
研究概要

自殺行動の経済学的な側面を理論的に探究した。具体的には以下の通り。
第1に、労働者の将来にわたる稼得可能性の割引現在期待価値として「人的資本」を定義・導出し、労働者は自らの人的資本の価値がある閾値を下回る場合に「経済的な苦痛」を感じるものと想定し、その苦痛を無に帰するための究極的な行動として自殺を定式化した。これは、人的資本を原資産とした、アメリカン・プット・オプションと数学的に類似の構造を持っている。このため、このように定式化された自殺権の経済的な価値を、数理ファイナンスでよく用いられている、金融派生商品の価格付けの公式を修正、拡張して理論的に導出した。
第2に、労働者が想定する「経済的苦痛を感じ始める閾値」に比べて、実際に自殺行動を引き起こす人的資本の閾値は理論的により低いことを明らかにした。すなわち、経済学的な観点からの最適な行動は、現時点で経済的な苦痛を感じた瞬間に自殺するのではなく、将来の人的資本の向上を見越して自殺念慮を抑制するという「オプション価値」を十分に念頭に入れたうえで行われるものである点を明らかにした。
第3に、数学的に同値だがこれとは逆の観点から、自殺権の経済的な価値は、一切自殺を念慮しないで人生を終える場合の人的資本の価値と、それ以前に自らの意思で自殺できる自由度の経済価値に分解されることを示した。
第4に、実際に自殺を引き起こす人的資本の閾値が、時間とともに変化するが決定論的な関数として表されることを示し、合わせてその関数は、当該労働者が資本市場と労働市場の環境を司るパラメーターを所与として、数値的に計算可能であることを示し、その公式を導出した。
以上の理論的な研究に加えて、大学院生の薄田涼子氏と共同で、自殺の2次医療圏データを扱いやすい形に加工し、統計ソフトStata用にフォーマット化した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

自殺権の経済学的な価値とその分解は理論的・数学的に難しい問題を抱えていたが、それらをおおむね解決できた。
また、このようにして得られた理論モデルにより、自殺にまつわる様々なリスク要因-加齢、失業、低い貯蓄率、マクロ経済学的な景気変動など-に対して、これまでのような社会学的な説明に加えて、動学経済学的な説明を与えることが可能になった。
また、実際に自殺を引き起こす人的資本の水準は、労働者が直接的に感じる「最低限達成したい人的資本の水準」よりもオプション価値の分だけ低くなることを理論的に示したのみならず、両者をほぼ陽表的に表現できたため、具体的な経済環境を司るパラメーターの値をさまざまに設定したうえで、自殺率がどのように各年代ごとに差が出てくるのかを反事実的(counter-factual)な政策シミュレーションにより分析可能となった。

今後の研究の推進方策

金融派生商品として様々な風変り(exotic)なオプションが提案されているが、それらのいくつかはより複雑な自殺権の経済学的価値を導出するのに応用可能である。たとえば、過去の人的資本の平均水準の一定割合を、現時点での人的資本の最低許容可能額と想定する労働者の自殺権の価値は、アジアン・アメリカンオプションと呼ばれる金融商品の価格付けにより与えられる。また、自殺のリスク要因として指摘されてきた離婚は、家族内の複数の成員の人的資本を原資産とするオプションと考えられる。今後はこれらの理論的な探究を深め、社会学的な説明が主であった自殺行動に経済学的な解釈を加えること、またそれにより自殺の社会的なコストやその抑制の経済学的な価値の推定にもつなげていく予定である。
また、前半で整備した自殺の2次医療圏データベースをますます拡充させ、理論的に導出した自殺権にまつわるオプション価値の直接的な推定も進展させたい。
最後に、統計数理研究所の自殺リスク研究班と密接に交流し、自殺行動のダイナミックな経済ファイナンス的な側面の理解の重要性を発信したい。

次年度の研究費の使用計画

大規模実証研究に利するためのワークステーションの購入、
研究成果の発表のための学会・セミナー旅行費、
研究成果の世界的な発信のための英語論文校正サービスの利用、
自殺問題の著名研究者のセミナー招聘費用、
など。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2013 その他

すべて 雑誌論文 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] A Contingent Claim Analysis of Suicide2013

    • 著者名/発表者名
      Shin S. Ikeda
    • 雑誌名

      GRIPS Discussion Paper Series

      巻: 13-5 ページ: 1-26

  • [備考] Shinsuke Ikeda's Home Page, Papers

    • URL

      http://www3.grips.ac.jp/~s-ikeda

URL: 

公開日: 2014-07-24  

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