研究課題
最終年度においては、初年度において切り開かれた、将来の不確実性と自殺が非可逆な行為であることから発生するオプション価値に関する理論の整備・拡張を図った。具体的には、金融資本(貯蓄など)と人的資本を含む総体的な富のストックの価値毀損に基づき自殺のタイミングが決定されるようモデルを拡張した。これにより、貯蓄額や家屋保有の有無といった経済学的な富の水準の違いが自殺率に影響することを理論的に解明できた。また、近年の自殺率高止まりの発端となった1998年度と、それ以前・以後の代表として1996年度、2003年度を取り上げ、構築した理論モデルのパラメーターの値を、これらの年度における労働市場および金融市場のデータから同定し、シミュレーション分析により各年度の特質を考察した。1998年度の労働市場における賃金の伸び率が負の値であったことに注目し、当該値を、それ以外のパラメーターが1996年度あるいは2003年度のデータに調整されたモデル環境に移植するという反現実的(counter-factual)実験を行った。これら反現実的なモデルからでも、1998年度において見られた高い自殺率を再現できたため、賃金伸び率が負の値をとるときが経済全体の自殺率を引き上げる要因であると結論した。研究期間全体を通じた課題であるデータベースの整備については現在でも継続中である。特に、市区町村レベルでの自殺率のデータと、同レベルの社会経済変数を組み合わせる作業は難航している。これは、平成の大合併と呼ばれる市区町村改変によるデータ範囲の変化が断続的に起こっているためである。幸い、自殺の実証研究に関する新たな科研費課題(課題番号26780141)が採択されたため、同作業はそちらに引き継いで行う予定である。
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GRIPS Discussion Paper Series
巻: Report No: 13-05 ページ: 1-26