本年度は、労働時間と企業の集積に関する研究を行った。日本の社会生活基本調査2006、2011で示されているように、常勤労働者の労働時間は都市部で長く、地方で短くなる傾向がある。この事実を説明できる理論モデルの構築を行った。本モデルでは、企業が集積する地域で労働時間が長くなり、労働時間が長い地域においては企業が集積するという結果が得られる。企業が集積している地域では、多様な財を輸送費用を負担することなく消費することができる。すなわち、与えられた名目賃金のもと、高い効用を得ることができる。このような地域では財の消費量を増やすために労働者は労働時間を長くすることで名目所得を増やす。名目所得の増加は市場規模の拡大を意味する。市場規模が拡大した地域では高い利潤が得られるため、企業が集積する。2015年度は、この研究をElastic labor supply and agglomerationという題目の論文に仕上げた。 また、本年度は不完全労働市場と租税競争に関する研究も行った。労働市場が不完全であり、失業があるもとでは、各国政府には企業に補助金を与えて誘致し、失業率を下げようとするインセンティブが働く。均衡においては資本課税率は過小になり、また失業率も下がらない。つまり、租税競争によって経済厚生は悪化するのである。本研究はこのような結果を解析的に導出することに成功した。従来、このようなモデルを解析的に分析することは難しく、数値計算で結果を出すことが多かった。本研究により、より広い政策分析に応用可能なモデルが提出されたといえる。
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