国際化に伴い、財の移動だけでなく、生産拠点の海外シフト、具体的には直接投資を通じた企業移動・FDIや海外アウトソーシングは国内産業・国内労働市場を空洞化させ、雇用状況に与える影響が問題になっている。マクロ経済における国内産業保護、雇用率の改善、GDPの安定化に対応するため、産業誘致や貿易政策など様々な経済政策が多くの国で講じられている。 そこで、本研究では生産拠点の変化を導入した国際マクロ動学理論モデルにおいて、海外への生産拠点のシフトや、企業の国際活動に対しての経済政策・貿易政策が、自国および対外諸国のマクロ変数(GDP・消費・雇用率)や為替レート、経常収支、および経済厚生にどのような効果を及ぼすかを分析するものである。特に海外生産シフトやオフショア・アウトソーシングの効果について考察をおこなう。特に、国際マクロモデルにおける不況状況を扱い、生産拠点の変化を明示的に捉えることで、従来では無視されてきた、国内産業保護や貿易政策などの経済政策が、経常収支や為替レート、経済成長だけでなく雇用・景気に対してどのようなインパクトを与えるかを分析できるという意味で、独創的なものといえる。過去の研究でなされてきた経済政策が、果たして完全雇用が成立しない不況下においても、同様の議論ができるのかを分析していく。 最終年度の本年度は、以下4本の論文がまとめられ刊行された。(1)貿易政策としての関税が経常収支へ与える効果を通じて、自国および外国の雇用に与える分析、(2)産業政策としてR&D補助金が企業立地に与える効果を通じて、知識のスピルオーバーと経済成長への分析、(3)国際間の経済統合が、産業数や成長率に与える分析、(4)産業の独占力の程度と国際間の企業立地と経済成長の分析。
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