研究課題/領域番号 |
24730212
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 青森公立大学 |
研究代表者 |
新井 泰弘 青森公立大学, 経営経済学部, 講師 (20611213)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 特許権 / 法と経済学 / イノベーション |
研究概要 |
特許権侵害に対する法的罰則の効果を見るための基礎モデルを構築するにあたり、平易なモデルを構築する必要がある。そのため、基本構造が類似しているArai (2009) "Intellectual Property Right Protection in the Software Market"のモデルを発展させることが最も確実な手段だと判断した。このモデルにおいては①侵害者と被害者の2社が同一市場で競争し、②被害者の商品品質が侵害者のものより高く、特許権侵害によってその品質差が縮まる、という性質を備えている。このモデルに、Arai (2011) "Civil and Criminal Penalties for Copyright Infringement "で用いた損害賠償と刑事罰金の数式表現を導入する事で基礎モデルを構築している。 そのため、Arai (2009) "Intellectual Property Right Protection in the Software Market"の精緻化が分析を達成するためには非常に重要となる。本年度はEvolution of Technology and Standards Fourth International Workshop、Annual Congress of SERCI 、法と経済学会2012年度全国大会、IIRサマースクール 2012、 DCカンファレンス 2012といった学会において報告を行い、モデルに対するフィードバックを得た。EARIE 2012では、最新の研究動向と関連文献の調査を行った。 また、研究協力者である神戸市立外国語大学の森谷文利氏とは、特許権と研究開発行動に着目した研究をディスカッションペーパーとして発行した。こちらも特許権侵害と研究開発のインセンティブの関係性を考える上では重要な関連性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は基本モデルの構築に取り掛かった。前述したようにArai (2009) "Intellectual Property Right Protection in the Software Market"のモデルに対して、懲罰的損害賠償と刑事罰金を導入し、各政策の効果を分析している。各種学会での報告と、それに対するフィードバック、また、研究協力者との議論を基にモデルを再構築し、基本的なフレームワークはほぼ完成した。 現在、特許権侵害に対する懲役刑の効果をモデルに組み込むための試行錯誤を行っている。先行研究としてPolinsky and Shavell (1989) ”The Optimal Use of Fines and Imprisonment”, Journal of Public Economics, 24, 89-99が潜在的犯罪者の機会費用に着目して分析を行っている。これを参考に、①特許権侵害者を懲役刑に処し、研究開発が行えない環境においてしまうことによる社会厚生損失と、②特許権侵害者の予算額が罰金や損害賠償を支払うことができない位小さい場合、懲役刑を適用する事によって特許権者の開発のインセンティブを確保することができる効果に着目し、モデルを構築している。また、特許権侵害と社会厚生や、開発のインセンティブの関係性等の政策的な分析も現在行っており、イノベイティブな発明を促すために望ましい法的罰則制度の考察を行っている。 本研究と関連の深い研究内容に関する学会報告や、ディスカッションペーパーの作成も積極的に行っているため、全体的にはおおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度前半においては、引き続き基本モデルの構築を行う。とりわけ、本研究から得られる政策的な含意(各制度と社会厚生、開発のインセンティブとの関係等)を可能な限りシンプルに表現できるようにモデルの調整を行う予定である。 平成25年度後半においては、基本モデルをもとにして応用モデルの作成にとりかかる予定である。とりわけ、Schankerman and Scotchmer (2001) “Damages and Injunctions in Protecting Intellectual Property” RAND Journal of Economics, 32, 199-220で取り扱われている差止請求権等の特許権に関する各種制度との関連性や、著作権等の他の知的財産権制度との関係性について言及を行い、より広い視野での政策的な提言が行えるように研究を進めていく。 以上のように研究を進めていくにあたり、適宜、一橋大学経済研究所の知財ワークショップや、東京大学社会科学研究所の産業組織ワークショップ等の研究会での報告を行いモデルの調整を行う。また、法と経済学会やEuropean Association for Research in Industrial Economics (EARIE)等に参加し、最新の研究動向を把握する予定である。基本モデルが完成した段階で、日本経済学会や応用経済学会等で研究報告を行い、応用モデル作成の参考とする。 モデルの作成が当初の予定通り進行しない場合においては、研究協力者との議論や各種研究会に積極的に参加し、様々な研究者からの報告へのフィードバックを通じてモデルを修正し対応する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を円滑に進めるための機材としてデスクトップパソコン(300千円)と関連書籍(150千円)が必要である。また、研究協力者が神戸にいるため、出張(150千円)により研究打ち合わせを行い、連絡を密に保つ必要がある。法と経済学会、European Association for Research in Industrial Economics (EARIE)等の学会に参加し、最新の研究内容を把握する事は本研究を進める上でも重要であるため、成果報告も含めて海外出張を行う(法と経済学会参加費:150千円、EARIE等海外学会参加費:550千円)。
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