これまでの研究成果をもとに、最適な特許権侵害に対する罰則制度(特許権侵害に対して米国のように民事罰のみで対処すべきか、我が国のように民事罰と刑事罰の2種類の罰則で対処すべきか)について分析した。どちらの罰則も侵害が発覚した際の期待損失を増やすことで特許権侵害を妨げている。しかし、民事上の損害賠償は権利者が受け取る事ができるのに対し、刑事罰金は権利者が受け取る事ができない。この差異に着目し、政府が「侵害者が支払う賠償金額」と、「支払われた賠償金額のうちの特許権者取分」を操作することで、米国のような民事罰のみの罰則(100%権利者が受け取る)と、日本のような民事+刑事罰則(一部政府が受け取る)を表現した。 Arai (2009) のモデルに基づき、①侵害者と特許権者の2社が同一市場に存在し、②侵害者は侵害の意思決定を、特許権者は侵害者を特定化するためのモニタリング活動を行う状況を想定してモデルを作成した。この場合、政府は侵害者に対して市場の参入を促すことで競争を促進し、特許権者のモニタリングコストを可能な限り少なくするように「特許権者の受取金額」を操作することになる。本論文では、一般的には民事罰のみの罰則制度が、民事罰と刑事罰の双方を用いる罰則制度を社会厚生上弱く支配することを示した。但し、多くの国で採用されているように「侵害者が支払う賠償金額」が「特許権者が特許権侵害者の侵害によって被った損害額」に依存して決定される場合においては、刑事罰を交えた罰則を用いた方が社会的に望ましい可能性があることを示唆した。 今年度中に行った関連研究として、青木、新井(2014)「電子書籍に係る出版社の権利保護」を経済研究に出版した。本研究は知的財産権保護政策と社会厚生の関係性や、企業間の戦略的行動が社会厚生に与える影響を分析する上で参考になっている。
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