研究課題/領域番号 |
24730213
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国際教養大学 |
研究代表者 |
俵 典和 国際教養大学, 国際教養学部, 助教 (10517618)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 人的資本投資 |
研究概要 |
教育投資指標に関する米国の州毎のデータを作成した。2000年、2010年における25-34歳人口の異なる最終学歴ごとの比率を教育投資指標と解釈する。失業率の集計指標については、U.S. Bureau of Labor Statisticsが集計した州毎の集計データを使用した。当該指標については時系列変動があるので、定常状態均衡のモデルの予測に対応する観測データのモーメントの選択は自明ではない。直観的接近として、25-34歳人口の失業率の1987年ー2005年の単純平均などを使用した。各州間において、教育投資指標と失業率との間に弱い負の相関が観察される。 モデルについては、Mortensen-Pissarides型の労働サーチモデルに、教育費用に関する個人間異質性、および個人による教育投資水準の決定を加え、均衡を定義し、存在と一意性を証明した。均衡の特性、後の数量的分析のガイダンスを得るために、定常状態における比較静学を行った。 人的資本投資と財政については、伝統的に労働経済、公共経済、マクロ経済の文献では重要なテーマであり、近年もそうした文献を拡張する研究が相次いでいる。かかる動機づけの下、上記ベンチマークのモデルに、flat rate taxの形で課税を入れ、税収の使用については、一括移転(lump-sum transfer)で各個人に返すケースと、失業保険給付や企業の求人活動への補助金として支出されるケースを構築した。定常状態均衡の質的性質について、興味深い結果が得られ、数量的分析の十分な動機づけが得られた。 上記作業に並行して、いくつかの関連文献の理解を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ベンチマークとなるべき基本モデルの構築およびその数量的性質については、論文「Schooling, Taxation and Unemployment」として、最初のドラフトを作成した。モデルは、Mortensen-Pissarides型の労働市場サーチモデルに、教育投資費用についての個人間の異質性および個人による教育投資水準の決定を組み込んだものである。さらに、公共政策への含意を含む方が、より面白くなるので、flat-rate型の課税を入れたモデルに拡張した。当該モデルの定常状態均衡を定義し、その存在と一意性を証明し、いくつかの比較静学を行った。数量分析については、カリブレーションと数値分析を行い始めたところである。 ターゲット・モーメントとなるデータの作成に関し、米国以外の関連指標に収集・整理が遅れていることを付記する。 さらに、危険中立的な個人のモデルではなく、危険回避的で、消費・貯蓄の決定、内生的利子率の決定を含む標準的動学モデルへの拡張が未着手であることを付記する。 以上の理由により、進捗状況は、「やや遅れている」ものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、課税を含む上述教育投資と労働サーチモデルのcalibrationおよび数量分析を行う。flat rate課税の教育投資および失業率への影響が、労働市場の摩擦の存否、税収の支出方法の差異などに、どのように依存しているかを確認する。当該分析から十分な動機づけが得られれば、flat rate税だけでなく、progressive taxationを考察し、progressive課税からflat rate課税への以降に伴う教育投資への影響を考察する。 第2に、さらに、危険中立的な個人のモデルではなく、危険回避的で、消費・貯蓄の決定、内生的利子率の決定を含む標準的動学モデルへの拡張を計画している。 当初研究計画では、モデルの定常状態ではなく、時系列分析、ダイナミクスの分析への拡張が予定されている。一方で、個人レベルの不確実性・ショックを取り入れ、集計レベルでは不確実性が存在しない伝統的Bewley型のModelへの拡張をすることで、明示的な動学経路を分析しなくても、定常状態均衡の分析にフォーカスすることで分析されるべき重要な問題が、依然として多くある。課税政策や労働市場の摩擦の度合い、存否が、定常状態における消費や資産、人的資本、賃金等の分布に与える影響は、極めて重要である。定常状態を離れた動学への拡張か、定常状態での分布の分析への拡張か、現在、文献リサーチと並行して、検討しているところである。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究セミナー・コンファレンスへの参加、報告にかかる往復旅費への使用を計画している。
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