研究課題/領域番号 |
24730218
|
研究機関 | 尾道市立大学 |
研究代表者 |
稲垣 一之 尾道市立大学, 経済情報学部, 准教授 (70508233)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 長時間労働 / 生産性 / 医療産業 / オイラー方程式 / 時系列分析 |
研究概要 |
本研究の目的は、医療従事者を対象にして、長時間労働と生産性損失の関係を実証分析することである。計画通りに、長時間労働と生産性損失の関係を描写する理論モデル(オイラー方程式)を構築し、そのモデルに日本の医療従事者のデータを当てはめて検証を行った。その結果、長時間労働により生産性にかなりの損失が生じていることが判明した。この結果は、日本の医療産業における長時間労働の深刻さを経済学的な観点から指摘するものであり、医療従事者の労働環境の改善を議論する際の重要な証拠になるものである。 また、上述した結果に加えて、長時間労働の原因も判明した。本研究が提案する理論モデルの分析結果によれば、日本の医療産業では、長時間労働のコストよりも、医療従事者の新規採用コストのほうがはるかに大きい。そのため、医療サービス供給を増やすためには、医療従事者の新規採用を増やすよりも、既存の医療従事者の労働時間を延ばしたほうが低コストであり雇用者には好まれる。以上の結果は、医療従事者の長時間労働が費用構造に依存していることを指摘するものであり、既存研究では指摘されてこなかった新たな発見である。更には、製造業など他産業のデータも使用して同様の分析を行ったところ、長時間労働によって生じる生産性損失の大きさは、医療産業の方が大きいことが分かった。この結果は、長時間労働の弊害が医療産業において顕著であることを示すものである。 以上の研究結果に基づき、2本の論文を作成することができた。1本の論文は、北九州市立大学のワーキングペーパーシリーズに登録され、海外の学術雑誌に投稿中である。もう1本の論文も同様に海外の学術雑誌に投稿され、現在は審査中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は予定通り順調に進んでいる。しかしながら、本研究内容について論文出版という成果に結びついていない点が今年度の反省点である。 研究開始時点で実証分析に使用する理論モデルの構築がある程度進んでいたため、実証分析を速やかに開始することが出来た。また、実証分析の進行と同時に、新たに入手した先行研究を参考にしながら理論モデルの改善も行った。得られた分析結果は、本研究を申請した際に説明した通りのものであり、長時間労働によって医療従事者の生産性が著しく低下していることが分かった。分析結果が一通りまとまったのは2012年8月頃であり、それから論文本文の執筆を開始した。完成した論文を海外の学術誌へ投稿したのは、9月頃である。また、投稿前に中京大学のセミナーで研究報告も行った。 しかしながら、翌年2月頃に論文不採用の通知が届いたため、論文審査員のコメントを参考にしながら、理論モデルや分析に使用するデータの調整・追加分析を行った。学外の協力者にもコメントを求めて、論文の修正に1か月ほど時間を費やした。現在は別の学術誌に投稿中であり、次年度には出版という成果に結びつくことを期待している。 また、2012年11月頃以降、入手したデータを使用して同時進行で医療産業を対象にした別の論文も作成した。この論文も完成し、現在は海外の学術誌へ投稿中である。 なお、この間に本研究を通じて入手したデータを使用して、同様の理論モデルの枠組みで別の論文も作成し学術雑誌へ投稿した。医療産業を対象にした論文ではない点に注意されたい。この論文は、2013年5月に学術雑誌International Journal of Businessへの掲載が決定し、同年9月に出版が予定されている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度実施計画に沿った形で研究を進めることが出来たため、今後の研究も当初の予定通りに進めたいと考えている。これまでは長時間労働と生産性損失の定性的な関係を分析してきたため、今後は定量的な関係にも注意を向けた分析を行う。この分析により、生産性に重大な損失が生じる労働時間の長さが解明されるため、労働環境改善のための重要な基準を見つけることが出来るかもしれない。 今後も出来るだけ多くの論文を完成させ、それらを海外の学術誌へ投稿したいと考えている。本研究を通じて新たな先行研究を確認しているが、本研究のような着眼点で医療産業の問題を経済学的に議論しているものは皆無である。そのため、本研究の成果を対外的に発表できるように一層努力する所存である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度にデータベースへのアクセス権を1年分購入しており、ライセンス料は1か月ごとに支払いが行われる。そのうち8か月分の支払いが次年度に発生する。今年度に購入したデータベースが上述したように1か月ごとの支払いでも可能であったため、費用面での負担のバランスを図った結果として今年度は4か月分のみの支払いとなったが、事実上は次年度使用額(B-A)が0円以下である。 なお、今後の研究計画でも使用するデータであり、また所属機関には研究用データベースがほとんど備わっていないため、データ分析を軸にしている本研究にとっては非常に重要なデータベースである。
|