研究課題/領域番号 |
24730221
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
松浦 司 中央大学, 経済学部, 准教授 (50520863)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 幸福度 / 生活満足度 / 希望子ども数 / 出産意欲 / パネルデータ |
研究概要 |
平成24年度の研究成果は、2回の学会報告と2つの論文を執筆したことが挙げられる。第1の論文として、「希望子ども数の決定要因分析」論文が人口学会における学会報告を経て『経済学論纂古郡鞆子教授古稀記念論文集』に掲載された。本研究では、有配偶者のデータを用いて、希望子ども数には差が見られないが、あと何人子どもが欲しいかに対する回答である「追加希望子ども数」は男性の方が女性よりも多く、男性の方が女性よりも最適であると考える子ども数と現在の子ども数が離れていることを示した。 第2の論文として、京都大学経済研究所の照山博司教授との「子ども数が生活満足度に与える影響」との共同論文が挙げられる。本論文は瀬古他編『日本の家計行動のダイナミズムIX』に掲載予定である。本研究では、「慶應義塾家計パネル調査」(以下、KHPSと略す)を用い、子ども数が夫婦の生活満足度に与える影響について、男女の非対称性に注目をして分析を試みた。推定に当たっては、子ども数以外に、生活満足度に影響を与えると考えられる、所得、資産、住居などの条件をコントロールし、パネルデータを用いた推定によって個人差の存在にも注目した。また、ライフサイクルの観点から、親が老後に子どもから生活支援を受けることを期待する可能性を考慮した推定を行った。さらに、子どもの養育に伴う時間的負担を導入した推定も行った。いずれの推定結果も子ども数の増加が生活満足度を高める効果は確認できなかった。60歳未満のサンプルの場合、男性では子ども数が生活満足度に影響を与えず、女性では子ども数が増えると生活満足度が低下する傾向が確認された。女性の結果については、松浦(2007)が示した結果と同様であり、パネルデータによる検証でも女性の場合は子どもが増えると生活満足度が低下するという傾向が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の平成24年の研究実施計画に対する達成度の自己評価は下記のとおりである。本研究の目的は松浦(2007)が示した、男性の場合は子ども数が増えると生活満足度が上昇し、女性の場合は逆に低下するという結果を固定効果を考慮しても成立する頑健な結果であるかを検証したうえで、ミクロ経済学的基礎付のある理論モデルに基づいて説明することである。 始めにパネルデータにて、子ども数が親の生活満足度に与える効果について、男女の非対称性に注目をして分析を行なった。その結果、固定効果を考慮しても60歳未満のサンプルの場合、男性では子ども数が生活満足度に影響を与えず、女性では子ども数が増えると生活満足度が低下する傾向が確認された。また、研究計画で予定していた動学的な視点を導入し、親が老後に子どもから生活支援を受けることを期待する可能性を考慮した推定を行った。さらに、子どもの養育に伴う時間的負担を導入した推定も行った。これらの場合も、女性では子ども数が増えると生活満足度が低下するという結果が示された。 さらに、子どもが親の効用に与える影響に関する男女の非対称性を検証するために、有配偶サンプルを用いて、希望子ども数の決定要因分析を行なった。その結果、希望子ども数には差が見られないが、あと何人子どもが欲しいかに対する回答である「追加希望子ども数」は男性の方が女性よりも多く、男性の方が女性よりも最適であると考える子ども数と現在の子ども数が離れていることが示された。 これら2つの論文によって、子ども数と生活満足度の関係の男女の非対称性について、ミクロ経済学的な枠組みを用いたうえでの推定を行い、男女間で追加希望子ども数が異なることから、男女で最適子ども数と現在の子ども数の乖離の程度が異なることが示した。これらは、予定した研究目的を概ね検証できていると考えるために、上記の判断を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究の結果、パネルデータによる固定効果をコントロールしても、女性の場合、子ども数は生活満足度に負の影響を与えることが示された。この結果は、先行研究の結果とも一致する。さらに子どもの養育に伴う時間的負担を導入したり、動学的な視点を考慮しても変化はなく、頑健な結果である。しかし、子ども数を効用に正に影響するという標準的な効用関数の仮定とは異なる。さらに効用に負の影響をもたらすとすれば、現実には子どもを持つ行動を多くの人が取るということを説明できない。 この結果に対する1つの有りうる説明として、男女の非対称性が考えられる。子ども数が生活満足度に与える影響が女性について負であったとしても、男性が正であれば、家庭内の交渉によって一人ないしは複数の子どもが持たれる可能性がある。しかし、男女とも子ども数が生活満足度に負ないしはゼロの効果しか持たなければ、子どもを持つさらなる誘因を考える必要が生じる。ただし、男性の場合は子ども数が生活満足度に有意な影響をもたらさない。その一方、もう1つの論文で示したように、男女で追加希望子ども数が異なるため、男女で最適子ども数と現在の子ども数の差が異なることがこのような結果を引き起きした可能性は考えられる。 これらの分析結果から、今後は子ども数が女性の生活満足度に対して負の影響をもたらす理由の検証を行なっていく予定である。KHPS調査では夫婦のそれぞれに対して、質問を行なっている。このため、単なる男性と女性ということではなく、同一家計の男女の違いに注目した分析が可能である。同一家計の男女のデータを用いて、ナッシュ交渉モデルに基づいた推定を行う予定である。さらに、日本のデータだけではなく国別のデータや、他国の個票データによる分析も行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は繰越金が存在している。その理由は、現段階では誘導型による推定を分析の中心にしたため、現在所有する環境で対応できたためである。また、国内雑誌への論文が中心であったために、英文校正に関する支出がなかったためである。これらに関しては来年度に支出する予定である。 平成24年度は2つの論文を執筆した。今後、この研究を進めるために、京都大学への出張経費として研究費を使用する予定である。また、海外では子ども数が生活満足度に与える影響や希望子ども数に関しての先行研究が蓄積されているため、それらの研究者との打ち合わせや海外での学会報告などの旅費として使用したい。 さらに、本年度は誘導型による推定を行なったが、理論モデルに基づいた構造推定を試みるために、専門ソフトの購入を予定している。また、海外のデータによる分析を予定しているために、データの購入料としても使用したい。 その他、海外の査読付雑誌に投稿するための英文校正の費用や投稿料としても使用する予定である。
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