研究課題/領域番号 |
24730221
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
松浦 司 中央大学, 経済学部, 准教授 (50520863)
|
キーワード | 幸福度 / 国際比較 / 希望子ども数 |
研究概要 |
平成25年度の研究成果については以下のとおりである。 第1に、「子ども数が生活満足度に与える影響」論文が、『日本の家計行動のダイナミズムIX』に掲載された。この論文では、日本のデータを用いて、子ども数と親の満足度の関係を分析した。その結果、女性の場合は子どもが増えると生活満足度が低下することが固定効果を考慮しても示された。 第2に、希望子ども数がその後の子ども数の変化に与える影響について分析した論文が『経済政策ジャーナル』に掲載された。この論文は、調整速度の計測という従来から経済学では使用されていた手法を希望子ども数の分析に適用して、希望と現実の差がどのように調整されるのか、またいかなる制約条件の緩和が希望と現実の差を埋めることに貢献するのかを分析した。 第3に、World Value Survey(世界価値観調査)を用いて、子どもが親の満足度に与える効果の非対称性に注目して研究を行った。この研究では、国によって子どもの親の満足度に与える影響が異なることが示された。例えば、母親の育児負担が低いとされる北欧や英米圏では子どもが母親の満足度の低下につながらず、幸福度を上昇させる傾向が観察される。しかし、エスピン=アンデルセンの枠組みで指摘される保守主義国家では、子ども数が母親の満足度を低下させることが示された。。 第4に、子どもが親の金銭満足度に与える効果を分析した研究では、GDPやTFRごとに効果が異なることを示した。例えば、TFRが低い国や1人あたりGDPが高い国では、子どもが親の金銭満足度を低下させる傾向が示された。この結果は、内生性を考慮して操作変数法を用いた頑健な結果である。また、親の年齢が子育て期間時期であると子ども数が親の金銭満足度を下げることから、教育負担が親の満足度を下げる可能性を示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に関して、研究目的に対する実際の研究はおおむね順調に進展していると考えられる。その理由は下記のとおりである。 平成25年度は、本研究計画に対して主に2つの研究成果を出版し、2つの成果については一定の目途をつけた。出版した成果は以下のとおりである。第1に「子ども数が生活満足度に与える影響」論文が『日本の家計行動のダイナミズムIX』に掲載された。第2に、希望子ども数と現実子ども数の関係を分析した論文が『経済政策ジャーナル』に採択された。 一定の目途がついた研究は以下のとおりである。第1に、WVS(世界価値観調査)を用いて、子どもを持つことが夫婦に与える幸福度について国際比較を行った。この分析結果は平成26年度に日本人口学会で発表する予定である。第2に、WVSを用いて、子どもが親の金銭満足度に与える影響の国際比較を行い、親の金銭満足度に与える効果が国のGDPやTFRの水準によって異なることを示した。この研究は、国際学会での発表を経て、海外の査読付き雑誌に投稿する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、先ほど述べたように前年度に一定の目途を付けた分析をさらに進めて、学会報告や論文投稿を行う予定である。 第1の研究は、WVSを用いて子どもが親の幸福度に与える効果に関して、男女の非対称性を考慮したうえで国際比較を行ったものである。この研究は2014年人口学会で報告することを予定している。さらに、コメントを反映させて、論文投稿を行いたい。 第2の研究は、出生率や1人あたりGDPの違いにより、子ども数が親の金銭満足度に与える影響が異なるという仮説を実証したものである。この論文は、国際学会で報告し海外の査読付き雑誌に投稿する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は以下のとおりである。第1に、共同研究の論文を国際学会に報告することを予定していたが、採択されなかった。このため、国際学会への出張旅費が必要とならなくなった。第2に、共同研究者の英語力が十分であるため、英文校正に関する費用が不要となった。第3に、国際比較をする際に用いたWVSに関しては無料で入手が可能であり、当面はWVSで適切な分析が可能であることが判明したためである。 共同研究者がアメリカに在外研究に行っている。このため、打ち合わせをするためにアメリカへの旅費が必要になる。また、国際学会への報告も予定している。単著論文の英文校正に関する費用として使用したい。
|