研究課題/領域番号 |
24730223
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研究機関 | 東京経済大学 |
研究代表者 |
黒田 敏史 東京経済大学, 経済学部, 講師 (80547274)
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キーワード | 日本放送協会 / 支払い意志額 / 受信料 / 周波数配分 / 動画配信 |
研究概要 |
本年度はWebアンケートによる情報収集により、動画配信サービスと放送サービスの需要代替性を分析する予定でした。しかし、NHKより郵送調査による個標データの提供を受けたため、そのデータを用いてNHKへの支払い意志額の推定を行いました。推定の結果、NHKの放送番組に対する消費者の支払い意志額とインターネットとの間には統計的に有意な相関が示されませんでした。 また、放送試乗では番組やチャネルの抱き合わせ販売が行われており、抱き合わせが消費者余剰を企業利潤に転換する傾向にあることから、他国ではばら売りを導入するような政策的取り組みが行われています。しかし、NHKの地上波放送と衛星放送を個別の財としたとき、仮に衛星放送単独の契約が可能になるよう制度変更を行っても消費者余剰の改善効果は殆ど無いことが明らかになりました。また、NHKは収支均等制約が課されているため、契約の一本化と呼ばれる全世帯に地上波・衛星波共に契約しなければならないような制度変更を行った場合、現行形態よりも価格を引き下げる事ができるため、消費者余剰は増加しますが、その大きさはごく僅かであることが明らかになりました。 抱き合わせの厚生への影響を踏まえると、番組単位での購入が可能な動画配信サービスの消費者余剰は番組抱き合わせになる放送サービスの余剰よりも大きい事が期待されます。放送の技術的性質がもたらす固有の価値が無い限り、電波を動画配信のために用いる放送の社会的意義は失われつつあると考えられるでしょう。 また、固定ブロードバンド・携帯インターネットの組みあわせに関する需要モデルの推定も行いました。推定の結果、固定通信と移動通信は補完性を有している事が明らかになりました。こうした性質を踏まえると、動画配信は固定ブロードバンドを利用し、周波数はできる限り移動通信に用いる事が好ましいと言えるでしょう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度では放送市場の加入市場についての需要の推定を、平成25年度では放送コンテンツについての需要の推定を行うこととしており、それぞれについて一定の成果を達成しています。また、NHKより個標データを得たことから、個々人レベルの選好の多様性についてパラメータを推定し、それを抱き合わせ理論と組み合わせることで、放送市場の契約形態の変化がもたらす厚生の変化についての知見を得ました。 放送コンテンツについて得られた知見としては、コンテンツへの支払い意志額は所得と強い相関があること、消費者の支払い意志額の45.6%をNHK総合チャネルが占めており、教育や衛星放送2チャネルに対する支払い意志額は低いこと、ジャンル毎の支払い意志額の内訳では報道・解説・スポーツ・ドラマの3ジャンルで50%以上を占めており、その他のジャンルへの支払い意志額は10%未満である事がわかりました。また、NHKの分類する10ジャンル間での相関行列を見てみると、多くのジャンル間で負の相関があり、これは抱き合わせによって消費者余剰が企業利潤に転換されやすいことを示しており、番組毎の購入が可能な動画配信の優位性を示すものと考えられます。 他方、ジャンル毎の放送と動画配信の代替性、並びに民放放送の消費者余剰についてはNHKによって提供されたデータでは分析を行う事ができませんでした。今後はNHKオンデマンドのデータの提供が得られるようNHKに働きかけてゆくほか、視聴率データを用いて地上波放送全体の消費者余剰についての量的な洞察を得る予定です。 また、固定通信・移動通信の組みあわせからなる選択に関する消費者行動モデルより、移動通信と固定通信の代替若しくは補完性を踏まえた消費者余剰を推定しました。 得られた消費者余剰を元に、次年度の周波数配分メカニズム間での消費者余剰の比較が可能となっており、計画は順調に進んでいると考えられます。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度、平成25年度の研究により、無線を利用した放送による消費者余剰、無線を利用した通信による消費者余剰について推定を行ってきました。今後の研究課題としては、これまでの研究で得られた放送と移動通信の周波数辺りの消費者余剰を元に、消費者余剰の観点から見た効率的な周波数配分を実現するメカニズムの考察を進めてゆきます。 まず、NHKの放送の消費者余剰を用いて、民放の放送のもたらす消費者余剰について推定を行い、地上波放送全体の消費者余剰について推定を行います。引き続き、通信・放送への周波数配分状況を元に、周波数辺りの消費者余剰を計算し、現在の配分の効率性と、最も消費者余剰が高くなる周波数配分に付いて計算を行います。 引き続き、現在の美人投票メカニズムによる周波数配分に比べて、くじ引き、オークション等のメカニズムによって実現される周波数配分状況についての反実仮想分析を行い、理想的配分から見た厚生のロスを比較します。特に、周波数オークションについては現在米国で導入が検討されている売り手と買い手いずれもが参加するインセンティブ・オークションのメカニズムや、消費者余剰をスコアとしたスコアリングオークション等の新たなメカニズムがもたらす配分について明らかにすることを試みます。 申請者は平成26年度は米国ミシガン州立大学訪問研究員として研究活動に専念する予定となっています。ミシガン州立大学には現FCCチーフエコノミストのSteve Wildman氏が在籍して居るほか、彼が代表を務めるThe Quello Center for Telecommunication Management and Lawがあり、FCCのオークションの導入に関する政策議論について関係者から直接話を聞く事ができる事が期待されます。その他、メカニズムデザインの文献調査等から理論についての理解を深める事を予定しています。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画ではインターネット調査により、放送と動画配信の間のコンテンツ毎の代替性について分析を行う予定でした。しかし、NHKよりNHKの放送番組への消費者の支払い意志額や、インターネット利用に関する調査データの提供を受ける事ができたことから、当該データを持ちいて放送番組についての支払い意志額や、それに対するインターネット利用が与える影響を推定する事としました。NHKによる調査データは郵送調査を利用していることから、インターネット利用者に偏るWeb調査よりも研究課題について分析する上で好ましい特性を有していると考えられます。 そのため、最終的な研究目標である放送の消費者余剰の計算には影響が出ないまま、さらにより信頼性の高い水準での放送の消費者余剰についての推定値を得る事が出来たと考えられます。 本年度はミシガン州立大学にて在外研究を行うため、現地で利用するコンピュータやソフトウェア等を追加購入する必要が生じるため、それらの購入に経費を充てるほか、米国国内での学会・研究会参加のための旅費とする予定です。
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