研究課題/領域番号 |
24730223
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研究機関 | 東京経済大学 |
研究代表者 |
黒田 敏史 東京経済大学, 経済学部, 講師 (80547274)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 排除可能公共財 / 抱き合わせ / 2段階ゲーム / 放送市場 |
研究実績の概要 |
本年度は公共財の供給メカニズムのサーベイ、2段階ゲームの構造推定、放送局間の需要代替についての分析を行いました。 利用者を選択的に排除できる排除可能公共財の理論では、利用者の排除は最善の配分を実現しないこと、実行可能な次善の配分では利用者の排除がより多い公共財の供給をもたらす事、公共財の供給上限が定められたメカニズムでは参加者数の増大に伴って過少申告の誘因が低下し、参加者が無限に増大した極限では最善の配分に到達する事が示されています。また、私的財と公共財が存在する場合、私的財と公共財をバンドルして供給するメカニズムはそれぞれを単独で供給する場合よりもより高い余剰をもたらす事が示されています。 また、固定通信と移動通信の抱き合わせに関する2段階ゲームの構造推定、反実仮想分析を行いました。昨年の固定ブロードバンドと移動通信の組みあわせ需要モデルを発展させ、個人の需要の相関と財の補完性を分離して推定する需要モデルの推定を行いました。さらに、同モデルを用いて1段階目で企業が抱き合わせを行うか否かを選択し、2段階目で企業が価格競争を行うモデルの反実仮想分析を行ったところ、NTTにとって抱き合わせは支配戦略であること、NTTへの非対称規制の緩和がNTTの市場シェア、利潤の増大をもたらすが、増加した需要の多くは競合事業者ではなく財を利用していない人からのものであるため競合事業者への影響は少なく、結果として消費者余剰が大きく増加する事が明らかになりました。 また、放送局間の需要代替についてNHKの世論調査のデータを用いて分析を行ったところ、NHKの視聴時間が延びても民放視聴時間に統計的に有意な影響を与えていないという結果を得ました。 これらを踏まえ、1段階目に周波数配分、2段階目に公共財の独占企業と私的財の通信企業が存在する資源配分メカニズムの均衡概念を用いた構造モデルを構築し、推定する予定です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時の計画では、本年度は周波数配分と配分後の市場成果の関係についてのモデルを構築・推定を行う予定でした。計画段階では放送市場を動画配信という私的財として分析する予定でしたが、昨年度の研究から放送は公共財の供給メカニズムの理論を用いて分析する事が望ましいと考えるようになったため、予定にはなかった公共財の配分メカニズムについてのサーベイを行うこととなりました。そのため、周波数の配分と配分後の市場成果の関連についてのサーベイ、モデル構築に遅れが生じています。 一方、構造推定と政策シミュレーションについては順調に理解を深めており、抱き合わせと価格競争の2段階ゲームの構造推定を完成さています。これにより、今後の周波数配分と市場での配分の2段階ゲームを分析するための予備的な知識を得ています。 また、放送事業者間の代替が有意では無いため、放送に利用される周波数については寡占理論ではなく独占者として扱えば良い事からモデルを単純化できる見込みが生じています。 これらを総括すると、研究状況はやや遅れていると考えます。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の計画に従い、周波数配分と配分後の市場成果の関連についてのモデルを構築し、推定を行って行きます。これまでの研究成果から、2段階目の市場成果が得られる過程は独占の公共財生産者と私的財の生産者が併存する状況である事が明らかになっています。また、周波数を中間投入財とする放送事業者と私的財の通信サービスから得られる余剰の大小を比較する鍵となる変数はメカニズム参加者数であると考えています。なぜなら、デジタル放送はスクランブルをかけることができる排除可能公共財となっていることから、メカニズム参加者数の増加が公共財の供給量を増加させる性質を有しており、極限では最善の配分を達成する性質を有しているためです。 通信市場からの余剰を分析するモデルは完成しているため、公共財から得られる余剰が参加人数によって増加していく様を推定するモデルを構築し、周波数配分モデルに組み込んで行く予定です。
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次年度使用額が生じた理由 |
一昨年にNHKより無償で放送市場についてのデータの提供を受けたため、実施予定であったWebアンケートへの支出を行わなかった残額の一部が引き続き次年度使用額となっています。
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次年度使用額の使用計画 |
得られた研究成果の学会発表の回数を増やし、より多くのフィードバックを受ける事ために使用する見込みです。
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