本年度は私的財の寡占市場と複数の公共財の独占企業における市場成果を考慮した周波数配分の効率性についての構造推定用のためのモデルの構築を行いました。 本年度は複数の通信サービスを供給する企業と、複数の放送サービスを供給する企業がいる場合の均衡の特徴付けと、周波数配分への含意を導きました。これまでの研究を踏まえ、通信サービス間は代替性が高く、放送サービス間の代替性が低いこと、通信と放送は代替されないという財の特徴、並びに通信企業の利潤は不確実な景気の影響を受けにくいが、放送企業の利潤は不確実な景気の影響を受けやすいとするとき、財市場の均衡の特徴として、通信市場と放送市場で企業数の増加が利潤に与える影響を分析すると、放送市場よりも通信市場の方が企業数の増加による利潤の減少が大きい事を明らかにしました。これは、通信市場の需要は価格に対して弾力的なため企業数が価格費用マージンの低下をもたらすのに対し、放送市場は財の差別化が大きく、放送市場の企業間の総利潤は固定費の増加分のみであるというモデルの定式化に依存しています。 また、先述の財市場均衡を与件としたときの、一定数の放送にも、通信にも利用可能な周波数をオークションで販売したときの入札行動の特徴付けを行いました。市場に所得変動のリスクが無い場合、潜在的な入札者として同質な通信サービスを供給する技術を持っている企業群と、同質な放送サービスを供給する技術を持っている企業群がいるとき、社会的に最適な配分よりも多くの放送企業が周波数を落札すること、免許数の増加は周波数の配分の歪みを拡大する事を明らかにしました。 他方、市場に所得変動のリスクがあり、企業がリスク回避的である場合、リスクの無い場合と比べた周波数配分の非効率性は通信市場と放送市場の所得効果の相対的な大小に依存しており、周波数数の増加の効果も同様である事を明らかにしました。
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