先行研究では、出願人情報から特許毎に産学連携の実態を把握し、その効果を分析しているケースが多い。しかし、日本の産学連携では、古くから大学の研究者は発明者としてのみに記載され、特許の出願人にはならない可能性が多く見られることが指摘されている。実際に金間他(2008)は東北大学等の事例を用いて、そのようなケースが多数見られることを示している。したがって、上記先行研究は、産学連携の範囲を過小に評価している可能性がある。そこで本研究では、燃料電池分野に焦点を絞り、特許書誌情報に記載されている発明者情報を用いて発明者の所属先を明らかにすることにより、中小企業での単独/共同発明特許の質的側面を分析することで同分野での企業間・産学連携の有効性を議論するとともに、共同発明の権利関係の解析を通じて、最適な権利配分が行われているのかどうかを検討した。分析結果では、まず研究成果との関連において、大企業単独特許と比較して、①中小企業単独発明特許は同程度の被引用件数を有しているが、②中小企業の産学連携の成果は統計的に有意に被引用件数が少ないという結果を得た。それ以外に、③大企業同士の共同研究の成果も被引用件数が有意に少ないこと、④産学連携での成果は全般的にIPC分類数が多く、技術範囲の広いユニークな発明が生み出される傾向が強いことを示す結果を得た。権利配分の分析では、⑤大企業と中小企業の共同研究において、権利が共有されずに大企業側単独で出願・権利化されるケースが多いこと、⑥産学連携では企業規模に関係なく企業側単独で権利化される傾向があることを示す結果を得た。
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