本研究課題で、産業発展を支える取引と組織の相互作用という視点から、雇用の非正規化の実態を把握するため、特にサプライチェーンなど、企業の境界に注意を向けて分析を行ってきた。より具体的には、垂直統合された事業所同士の企業内貿易に始まり、国際貿易や外国直接投資などの海外展開に直接関与するなど、国内取引から海外取引への移行を可能にする企業内人事組織とは何か、海外展開する企業に特徴的な企業間分業と企業の境界の再設定の在り方は何か、そして分業に伴う技術移転を制約するものは何かに関心を向けてきた。本稿では、途上国・新興国製造業企業にとって、取引機会の地理的拡大を実現可能にする生産組織の設計方針はどうあるべきかについて具体的なレッスンを導くために、企業内経営管理手法および企業間技術移転の視点から、以下の分析を行った。 第一に、企業間の技術移転と企業間で行われる国際貿易の関わりを調べることで、企業間の技術移転を支える雇用や企業訓練の在り方を抽出した。第二に、本稿ではサプライチェーン内部で無形資産が移転される際に、空間的に制約されやすい技術特性と企業特性を検出することを目的とし、東南アジアでの独自データに基づく実態把握を行った。最後に、この実態把握に基づき、企業異質性の源泉を人材と捉え、生産チェーン内部で組織的な情報の吸収と、取引先への技術指導・技術受容を組み合わせた企業間マッチング・モデルの作成を行っている。そこでは、そうした企業間取引が雇用の非正規化、柔軟化に与える影響についてのモデル分析にも取り組んだ。
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