本研究の目的は、1975年~1979年のポル・ポト政権下のカンボジアに着目して、この政権下で行われた社会制度の変革が人々の経済行動に与えた影響を研究することである。平成26年度は、最終年度にあたり、平成25年度に得られた研究成果を踏まえて、カンボジア大虐殺の長期的影響をさらに検討した。具体的には、まず、カンボジア大虐殺の制度的理解を与えた。そして、制度的分析枠組みに基づいて、カンボジア大虐殺の長期的影響を検証する実証研究を設計した。また、その際生じる計量経済学的問題に対処するため、新たな推定戦略を考案し、より精緻な分析を提示した。本研究並びにこれまでに実施した研究により、ポル・ポト政権下の社会制度の影響をより強く受けた社会集団で、当時の制度や大虐殺がその後の経済行動に負の影響を与えていることが分かった。さらに、社会的背景を踏まえて、背後のメカニズムについても考察した。本研究の結果は、制度の生成、永続性、そして、暴力の長期的影響に関する新たな知見・洞察を与えるものであり、かつ、ポル・ポト政権の歴史的惨事の社会経済的帰結の一端を明らかにした政策的含意を持つものである。
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