研究課題
若手研究(B)
本研究の目的は,1990年代の移行不況から脱した後,2000年代に10年ほど持続的な経済成長が続いた一方で,依然として高い不平等度が維持されているロシアの不平等のメカニズムを解明することである。初年度にあたる平成24年度は,ロシアにおける不平等のメカニズム解明の第一歩として,農村家計のインフォーマル就労(個人副業経営)に焦点を絞り研究を進めた。この研究の一部として,所得ショックに直面する場合,特に,農村貧困家計が個人副業経営のセーフティネット機能を強めることを,地域レベルの代表性をもつロシア家計調査(政府統計)の個票データを用いて,実証的に明らかにした。既存研究により,動学的な貧困の罠のモデルが仮定する低位均衡がロシアでみられないことが発見されていたが,その調整機能の正体は明らかにされていなかった。本研究の最も重要な意義は,この調整機能の正体がインフォーマル就労(個人副業経営)であることを実証的に示したことである。また,多くの既存研究が個人副業経営の地域的多様性について言及しており,従って,こういった地域性を十分に考慮した上で分析を行うことが重要であると考えられた。しかし,これまで,地域の多様性を十分にコントロールした分析は存在していなかった。本研究のその他の意義の一つは,この問題をクリアするために,地域レベルの代表性をもつロシア家計調査を用いて実証分析を行っている点である。本研究の成果は,査読付き学術誌や研究集会等で発表された。また,ロシア貧困・不平等に関する本研究の成果の一部は,応用研究として,カザフスタン最低生存費の研究へと発展し,カザフスタン共和国の最低生存費改訂の際に利用された。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度である平成24年度には,文献収集,データの精査,試験的分析が中心的作業になると考えられたが,当初の計画以上に研究が進み,その研究成果を学術誌や研究会等において発表することができた。
今後は,農村家計のインフォーマル就労だけでなく,さらに,研究対象を都市の家計経済に広げ,大規模家計調査の個票データに基づき,ロシアにおける不平等と非正規雇用について試験的分析を進める。これらの実証研究の成果は,比較分析の観点から,日本における不平等のメカニズムの解明の一助になることも期待される。その他,研究成果の英文雑誌への投稿,及び,国際学会での報告を計画している。
該当なし。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
日本国際問題研究所編『平成24年度ロシア研究会中間報告書 ロシア政治システムの変容と外交政策への影響』日本国際問題研究所(近刊,所収)。
巻: ― ページ: 49-58
ILO, ed., Methods for Estimating the Poverty Lines: Four Country Case Studies, Moscow: ILO.(所収)
巻: ― ページ: 65-80
ILO, ed., The Methodologies of the Subsistence Minimum Determination in Kazakhstan: the Ways and Approaches to Improve, Moscow: ILO.(所収)
巻: ― ページ: 14-25
巻: ― ページ: 42-44
『経済研究』
巻: 63(4) ページ: 305-317
野部公一・崔在東 編『20世紀ロシアの農民世界』日本経済評論社(所収)。
巻: ― ページ: 339-361