ロシアでは,1990年代の移行不況の中,貧困が急激に拡大したが,2000年頃に長く深い移行不況から脱し安定的な経済成長を享受するようになると,全国レベルの貧困者比率が徐々に減少していった。しかし,その一方で,依然として,不平等度は高い水準で維持されているのが現状であり,また,近年,経済成長にも陰りが見え始めている。本研究の目的は,労働及び社会保障の側面から,高い水準で維持されるロシアの不平等のメカニズムを実証的に明らかにすることである。 最終年度にあたる平成26年度は,前年度及び前々年度の研究成果を総括すると同時に,主に,貧困・不平等に関わる社会保護制度の研究をおこなった。この研究において,(1) 移行不況期にロシアの貧困は急激に拡大したが,貧困層向けの生活保護制度の整備は遅れ,日本の生活保護法に相当する国家生活扶助法が成立したのは,経済成長の兆しが見え始めた1999年であること,(2) 移行不況期も移行不況期後も,ロシアの代表的な貧困層は,年金生活者など高齢者層ではなく,子供をもつ勤労家計であり,また,貧困者全体に占める比率は小さいが,失業者の貧困に陥る確率が高いこと,(3) ロシアの国家生活扶助法はソ連時代の特典的要素の色彩を帯びており,貧困層のターゲティングには失敗しているが,近年,社会的契約に基づく就労や職業訓練など自立を促す積極的支援が導入されていることが明らかにされた。なお,本研究は,大規模家計調査(ロシア全国レベル)を用いて実証的に貧困プロファイルをおこない,その実証結果に基づきロシアの社会保護制度を分析した我が国初の研究である。 以上の研究成果を内外の研究集会で報告することに努めた。なお,上記の社会保護制度に関する研究は,学術誌に公表されることが確定している。
|