今年度は、これまでのヨーロッパに関する研究を踏まえ、アジアの分析を行った。特に、ASEAN Economic Community(AEC)によって進められるASEANの市場統合に関して、労働市場の流動性に着目し、そのスピルオーバー効果について分析を行った。ここでは、経済統合理論やEUの経験を踏まえ、AECによる労働市場の統合がどのような効果を及ぼすのか予測した。AECによるアセアン地域の経済統合プロセスはアセアン加盟国の市場統合を促し、企業戦略の変革をもたらすものであると考えた。つまり、AECの進展により域内の企業は対応策としてリストラを行い、効率的な生産や物流活動を行うとともに、人材育成や人事制度にも構造的な展開が必要になると考えた。この予測をもとに、企業の人事戦略がどのように変化するのか分析を行った。 また、複数錐型ヘクシャーオリンモデル(HOモデル)を理論的背景とし、自由貿易地域における産業構造の発展について、国の枠組みを超えたスピルオーバー効果の分析を行った。特に今年は、Schott(2003)やKiyota(2014)を参考に、生産関数に基づく理論展開の整理を行うとともに、実証展開の可能な国や地域のデータ整理を行った。 本研究における期間全体と通じた研究成果としては、ヨーロッパの経済統合が進むとともに顕在化する国ごとの格差や経済発展の連携問題がより明確に把握できる手法が把握できた。また、アセアンを中心にアジアでの経済統合も進む中、スピルオーバー効果の意義が大きくなりつつあり、今後の研究課題への基盤を形成することができた。
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