中国では1970年代末の改革開放開始後、交通アクセスなど経済発展の条件のよい沿海地域の経済発展を優先させる戦略がとられた。その結果、沿海部各地に産業集積が形成されたが、このことは沿海内陸間の地域格差の原因の一つともなった。そこで、1990年代半ば以降、中国政府は拡大していた地域格差に対応するため、内陸部を含む総合的な地域開発戦略へと政策転換を行った。 本研究では、中国の1995年・2004年・2008年に実施されたセンサスデータと約2800ある県レベルの地理的位置情報をもとに、製造業企業と外資企業の立地の地理的集中・集積の状況ならびにその動態的変化を分析し、上記の1990年代半ばに行われた政策転換の効果を評価した。 平成25年度は、先に入手していた1995年・2004年センサスデータに加え、新たに入手した2008年センサスデータも合わせて企業の地理的分布について分析を行った。1995年と2004年の結果を比較したところ、農産品加工や繊維アパレル等の軽工業企業の立地は、沿海部の集積地からの飛び地的な分散が見られ、一部では内陸の省都といった大都市への移転も見られた。その一方で、プラスチックやゴム等の化学工業や電子計算機、通信設備等の電子工業分野では、沿海部の集積地の地理的範囲の拡大がみられた。2004年と2008年の比較では、2004年までに軽工業で見られた省都大都市周辺への集積範囲のわずかな拡大が見られた。その一方で、化学工業や各種機械製造は沿海部集積地への集中がより進んでいた。 また、統計データからの分析を裏付けるために、沿海部の広東省での聞き取り調査も行ったが、内陸部での人件費の上昇もあり、多くの企業は内陸への移転は予定していないとのことであった。 以上より、政策のねらいであった内陸地域の産業の移転・高度化という点では政策的効果は限定的であるいことがわかった。
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