研究課題/領域番号 |
24730249
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
立花 実 大阪府立大学, 経済学部, 准教授 (70405330)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量的緩和策 / 非伝統的金融政策 |
研究概要 |
まず、FRBが2008年秋のリーマン・ショック後に採用した「市場とのコミュニケーション手段」についての評価を行った。この期間に実施された非伝統的金融政策としては、ゼロ金利政策、量的緩和策(QE1~QE3)、ツイスト・オペが挙げられる。それらの政策効果を高めるためにFRBは市場とのコミュニケーション手段も工夫した。具体的には、時間軸政策とインフレ・ターゲット(IT)の2つのコミュニケーション手段の導入である。前者の時間軸政策とは、ゼロ金利政策の先行きの継続期間を示すことで、市場の短期金利の予想に働きかけて長期金利を引き下げることを企図している。本研究では、この時間軸政策に中長期の金利を引き下げる効果があったことを示した。具体的には、2011年8月の「少なくとも2013年半ばまではゼロ金利政策を継続する」という声明は、満期が2年以上の利回りで8~22bp引き下げる効果があったことを確認した。また後者のコミュニケーション手段であるITは2012年1月に採用され、2%のインフレ率が長期的な目標として設定された。本研究はITが採用されていなかったQE1・2期には、量的緩和が原油価格を上昇させ、期待インフレの不安定化を招いていることを示した。よって、ITには量的緩和の副作用を抑える補完的な役割が期待される。以上の研究成果を、日本金融学会2012年度秋季大会のパネル討論『中央銀行の市場とのコミュニケーション』で報告した。 次に、関西大学の本多佑三教授と共同で日銀が2001年から2006年に行った量的緩和策の効果について分析した。これまでの筆者らの研究によって、当時の量的緩和策は株価上昇を通じて生産に有意な影響を及ぼしたことが示されている。本研究ではさらに分析を進め、当時の株価上昇が企業の新規株式発行や設備投資を促したことを示した。この研究成果は論文にまとめDPとして発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では研究目的の一つとして、2008年秋のリーマン・ショック以降に採用された米国の非伝統的金融政策の効果と副作用を測定することを掲げている。H24年度の研究では、FRBが2008年秋のリーマン・ショック以降に採用した政策のうち「時間軸政策」と「IT」に効果あるいは効果の余地があることを示した。すなわち、これらのコミュニケーション手段は量的緩和策に代表される非伝統的金融政策の効果を補完する役割があると言える。また、米国のQE1・2期には石油価格を引き上げ、期待インフレ率を不安定にしたという副作用も検出され、本研究課題のテーマの一つである副作用についても研究が進んだ。 また本研究課題では、日銀が2001年から2006年まで採用した量的緩和策の効果を測定することも研究目的として掲げている。本年度の研究では、筆者らのこれまでの研究をさらに発展させ、量的緩和期の株価上昇が企業の新規株式発行や設備投資を増加させたことを発見しており、研究目的の一部が達成された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究より、量的緩和策が株価を引き上げ実体経済に波及したこと、そして量的緩和期の株価上昇は企業の資金調達面に影響を与えて設備投資を促したことが明らかになった。つまり、「①量的緩和→②株価上昇→③実態経済」というルートの存在と②→③のルートの詳細な検証が行われた。今後の課題としてはなぜ量的緩和が株価に影響を与えるか、すなわち①→②のルートについて詳細に分析を行う予定である。そのために、Finanical economicsの分野で発展してきたCAPMを計量モデルに組み込むことで、上記の研究課題を解決していく予定である。この研究によって量的緩和策の効果に理論的な背景を持たせることが可能となる。その後、さらに動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルにまで昇華させることを最終的な目的として研究を推進していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は研究の遂行上、マクロデータを主に使用したが、株価・金利データといった金融データは予定していたほど使用しなかった。25年度は上記の研究推進方策に従いこれらの金融データを頻繁に使用する予定であるため、関係するデータベースの購入に50万程度の資金を振り分ける予定である。また、論文の英語校正、研究成果の報告、投稿料に20~40万程度の費用計上を予定している。その他、図書・資料の購入、消耗品の購入、他研究者からの知見提供に対する謝金などに残りの研究費をあてる予定である。
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