研究課題
H25年度に引き続き、日本における伝統的金融政策と非伝統的金融政策(特に量的緩和策)のマクロ経済への効果を比較するというテーマを掲げ研究を進めた。とりわけ、分析手法の面で昨年度よりもさらに研究を発展させた。具体的には、H25年度は符号制約VARのアプローチを用いたが、H26年度はそのアプローチに加え以下の3つの特徴を有する分析を行った。(1)長短金利差をVARモデルに加え、量的緩和期における金融緩和ショックを「銀行準備を増加させ、かつ長短金利差を縮小させる」ショックと定義した。(2)金融政策のマクロ経済への効果が発現するタイミングが伝統的金融政策と量的緩和策とでは異なる可能性を考慮するために、緩和ショック後の物価や生産の反応が異なる3パターンのVARモデルを推定した。(3)伝統的金融政策と非伝統的金融政策とでは政策手段が異なるために、単純に効果を比較することは難しい。そのため、株価の反応式をVARモデルとは独立に推定し、緩和ショックに対する株価の反応の大きさを共通の尺度としてマクロ経済への効果を比較した。これらの分析手法上の改良により、以下のような結果が得られた。(1)金融緩和ショック後に生産が即座に反応する可能性を考慮したVARモデルでは、量的緩和策の生産への効果が有意なものとなった。(2)伝統的金融政策と量的緩和策の効果の質的な違いとして、量的緩和策は効果の発現がより早く見られるものの、持続性はあまりなく、不確実性が比較的高い。(3)量的な違いとしては、量的緩和策は伝統的金融政策と比べ、生産への影響がより大きく、物価への影響はより小さい。これらの研究結果は、量的緩和策の評価は伝統的金融政策のそれとは異なるモデルで行うべきであることを示唆している。また、(2)の結果より量的緩和策の副作用がある程度あることも示唆している。この研究は、論文にまとめ、学会で研究報告を行った。
2: おおむね順調に進展している
H26年度はH25年度に行った研究を分析手法の面でさらに発展させ、量的緩和策の効果を測定し、さらに伝統的金融政策の効果と比較することができる時系列モデルを提示することができた。また量的緩和策が伝統的金融政策よりも効果の持続期間が短く、かつ効果が不確実であるという分析結果より、量的緩和策には効果だけでなく副作用もあり得ること、しかしながらプラスの効果の方が全体で上回っていることが示唆された。これらの研究成果より、本研究課題の目的の一部を達成できたと言える。
H26年度の研究では、量的緩和策の効果の起点として長期金利の下落が想定されていたが、その後の伝播経路が明確にされていない。本多・黒木・立花(2010)や本多・立花(2011)では、株価を通じた伝播経路が検出されたがこれらの研究は単純なVARモデルを用いており、手法面で課題が残されている。H27年度はIdentification through heteroskedasticityのようなより精緻な手法を用いて、長期金利が株価や為替レートにどのような影響を及ぼしたのか推定を試みる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件)
Discussion Paper New Series, School of Economics, Osaka Prefecture University
巻: No.2015-3 ページ: pp.1-34
Japanese Economic Review
巻: Vol. 65, No.3 ページ: pp.375-396
10.1111/jere.12019