研究課題/領域番号 |
24730251
|
研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
細谷 圭 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (40405890)
|
キーワード | 自然災害 / 成長理論 / 収束分析 / 社会的共通資本 / 経済政策 |
研究概要 |
本研究プロジェクトは,理論分析と数値解析を用いて,大規模自然災害からの復興プロセスの検討を具体的に行おうとするものである.当然ながら,東日本大震災を強く意識した研究プロジェクトである.当初,四つのフェーズで研究プランを立てており,そのうち平成25年度は,おもに適切な理論モデルの構築作業とその数値解析を行うことを計画していた. まず,理論モデルの構築については,当初の予定どおりに進めることができたと考えられる.前年度までに,本プロジェクトのベースライン・モデルとして,公共インフラ(ストック変数)を含む二種類の動学的一般均衡モデルの開発に成功していた.それらについて,理論的収束速度の導出を本年度の一つの課題としていたが,これを無事に行うことができた(第一モデルについてはすでに導出済み).あわせて,両モデルについて,均衡の一意性とサドル経路安定性を明確に確認した(数値解析の基礎的モデルとして,適切な特徴を持つと判断できる). 理論モデルの開発が順調であったため,平成25年度後半期は数値解析作業にある程度集中して取り組むことができた.対象としたのは,二種類のうち,よりシンプルな構造を持つ第一モデルである(公共インフラが生産のみに影響する).解析作業の途上にあるが,いくつかの特筆すべき結果を得たので列挙する.(1)2%成長を達する最も基本的なケースにおいて,収束速度は約5.7%であり,移行過程の長さ(90%経過に要する時間)は約40.6年であった.(2)上のケースを前提として,自然災害によって1割の物的資本の毀損が生じたとすると,移行過程の長さは約42.3年となった.(3)移行過程期間を注意深く観察すると,現在の復興進捗状況は大きく遅れているとは言えない.特に(3)が興味深い.しかしながら,今後さらに詳細な分析を行いたい.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究実施計画に記した内容については,かなりの程度研究を進めることができたと考えられる.しかし,やや不満足な点が二つある.一つは,より豊かなインプリケーションをもたらすと考えられる第二モデル(公共インフラが効用と生産の両方に影響する)の数値解析に取りかかれなかったことである.よって,次年度において,早急に分析を開始したい.もう一つは,資本毀損の程度を設定するにあたって多くの資料やデータを集めたものの,未だ整理が不十分な状態にある.シミュレーションに際して,極めて重要なポイントであるから,なるべく早急に作業に着手したい.平成25年度はおもに理論分析にウェイトを置いていたため致し方ないが,本プロジェクトにとって喫緊の課題である.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究,とりわけ平成26年度において実施予定の重要な作業は,おもに研究の第四フェーズに取り組んでいくことである.そのため,第一モデルと第二モデルの両方について,数値解析の結果を早急にまとめ上げなければならない.そして,計算された移行過程の長さから,どのような中長期的復興展望を描くことができるかが本プロジェクトのハイライトであり,平成26年度の直接的課題である.先に少しふれたように,一般的なマスコミ報道からの見解とは異なるような研究結果も得られはじめており,より一層丁寧な研究が必要である.これから取り組む研究内容は,個人や企業の(将来的)意思決定に影響を与える可能性があり,また,実際の復興の進捗を判断する道標にもなり得ることから,可能な限り精緻かつ具体的な分析を目指していきたい.
|