本研究プロジェクトは,理論分析と数値解析を用いて,大規模自然災害からの復興プロセスの検討を具体的に行おうとするものである。当然ながら,東日本大震災を強く意識した研究プロジェクトである。当初,四つのフェーズで研究プランを立てており,そのうち平成26年度は,これまでに構築した理論モデルの分析結果に依拠しながら,政策的インプリケーションの導出,復興展望,復興段階評価等の具体的な政策分析を行うことを計画していた。 まず,すでに数値解析の段階に入っていたベースライン・モデルを使った分析について,国際学術雑誌への投稿を目指していくつかの分析を加えて論文として完成させる作業を行った。追加された分析では,震災後の長期均衡への移行過程全体を暫定的に復興期間と位置づけ,復興段階ごとの到達年数を計算した。たとえば,全復興の50%を達成するのに約13年を要するといった重要な結果が得られた。この分析を総合的に評価すると,現在(2015年)の進捗は20%程度と予想され,これは被災地の実態とある程度整合的であると思われる。 次に,公共インフラ(ストック変数)を効用関数にも含めるタイプの拡張モデルについては,前年度までに理論的プロパティの導出を終えており,予定通り数値解析に移行した。計画した数値解析をすべて終えたわけではないが,ベースライン・モデルと拡張モデルとの比較が部分的に可能となった。重要な点として,公共インフラへの関心の強さは,収束を速める方向に作用し,移行過程の長さに影響することが確かめられた。政策的インプリケーションを導出する場合,この帰結には慎重に向き合う必要があるが,インフラ整備を行う際の関係者間での合意形成を丁寧に行うことが,復興の加速化に資する可能性を示唆しており非常に興味深い。
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