研究課題/領域番号 |
24730254
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
大橋 陽 金城学院大学, 国際情報学部, 准教授 (70350957)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | unbanked / underbanked / アメリカ / 連邦預金保険公社 / 伝統的金融サービス機関 |
研究概要 |
研究テーマであるunbanked及びunderbankedに関して,連邦預金保険公社(FDIC; Federal Deposit Insurance Corporation)により初めて包括的な報告書が,2009年に公表された。2012年に,2011年度に実施された調査結果が開示されたため,両者のレポートの比較を軸に,各種文献資料に基づきながら,最近の状況について詳細に検討した。 それによると,各方面における取り組みはそれぞれ成果を挙げ,unbankedの状態にある人々に銀行口座を付与し,それを維持させることに成功している。しかしながら,2008年9月のリーマン・ショックとそれに続く「大停滞」(the Great Recession)を主たる原因として,unbanked,underbankedの集計的な比率は悪化を見せた。2009年から2011年までに,unbanked世帯比率は7.7%から8.2%に約0.6%ポイント(821,000世帯)増加し,underbanked世帯比率は18.2%から20.1%に約10%ポイント(1,370,000世帯)も増加した。 こうした事実を踏まえて,金融規制当局,伝統的金融サービス機関(TFSIs; Traditional Financial Services Institutions),ヒスパニックの3つの視点から,unbanked及びunderbankedが生み出された要因について明らかにした。 こうした課題に取り組む際,現地における聞き取りは効果的であった。自ら出向いて直接顔を合わせることによって,初めて知ることができる事柄も多かったからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
unbanked及びunderbankedが多く生み出された要因について,既存の調査結果を活用した上で,金融規制当局,伝統的金融サービス機関(TFSIs; Traditional Financial Services Institutions),ヒスパニックの3つの視点から,unbanked及びunderbankedが生み出された要因について明らかにすることができた。 その主たる理由は初期に思い描いていたような聞き取り調査がおおむね順調に遂行されたからである。聞き取りの中で,金融規制当局にとって,unbanked及びunderbankedの問題は,2008年リーマン・ショック以降,改めて焦点を合わせる必要性が高まった領域であることが分かった。そのおかげもあり,アウトリーチの一環として聞き取り調査を快く受け入れてもらえたのであった。 金融規制当局の中で,財務省と連邦預金保険公社(FDIC)が連携しつつも独自の取り組みを行っている。財務省は,2002年に8つの地域で実験的なFirst Account Programを開始した。他方,FDICは,FDIC Economic Inclusion Initiativeを軸に,多様な実験プログラムを展開している。またFDICはunbanked及びunderbankedに関する実態調査を主導する立場でもある。 聞き取りの中で,コミュニティ再投資法(CRA; Community Reinvestment Act)の意義を改めて認識することができたが,コミュニティ,格差拡大に対する規制当局の問題意識の高さゆえに聞き取りがうまくいった一因といえる。もちろん,そうした状況を予め想定して研究計画を立てたことは言うまでもない。
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今後の研究の推進方策 |
経済的格差の拡大と人種・エスニシティの相違を主な要因として,中間層の崩壊と社会的紐帯の切断がアメリカの大きな課題となっている。“unbanked”は,中間層に上昇するのに不可欠な経済的基盤を奪われていることを意味する。unbanked”の状態にある人々に銀行口座を提供する「経済的包摂」(economic inclusion)が重要課題であるのは,そのためにほかならない。「経済的包摂」の取り組みの成否について明らかにするため,まずはunbanked及びunderbankedが生み出された要因について金融規制当局への聞き取りを行い、十分な成果を得た。その成果を活かし、続く段階では、次の2つのことに研究計画を分けて、研究推進を行おうとしている。 1. 2000年代に入り急増している代替的金融サービス機関(AFSIs; Alternative Financial Services Institutions)が,いかにしてunbankedの人々の金融ニーズを満たしているのかを明らかにする。 2. 伝統的金融サービス機関(TFSIs)主導の「経済的包摂」の取り組みの成果と課題について,理論的・実証的に明らかにし,他への適用可能性について理論的に検討する。 次年度については1の課題について集中して研究を遂行し、最終年度に2の課題に取り組む計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2000年代に入り急増している代替的金融サービス機関(AFSIs; Alternative Financial Services Institutions)が,いかにしてunbankedの人々の金融ニーズを満たしているのかを明らかにする。そのために,既存研究,調査報告などの文献調査と,現地での聞き取り調査を効果的に組み合わせて研究を遂行する。したがって,研究費は,「物品費」(文献など)100,000円,「旅費」(アメリカ往復の航空券や宿泊等の滞在費)600,000万円,「人件費・謝金」150,000円、「その他」(レンタカー、論文投稿費用など)150,000円を予定している。 1. 代替的金融サービス機関(AFSIs)の業界動向調査; AFSIsの中でも送金業者が中心的な調査対象となる。アメリカから中南米への送金額は年間700億ドルに上るが,その95%は銀行を経由せず送金業者に依存したものである。多くの州の送金業者法は,小切手換金,両替などの業務も認めているので,サービスの範囲から言ってもヒスパニックの利用頻度は高い。さらに最大手のWestern Unionがプリペイド式の携帯電話を活用した海外送金サービスをはじめたことに象徴されるように,金融技術と通信技術の融合及び革新は目覚ましい。送金業界の動向についてはこの分野の日本人起業家の助言を得て調査を進める。 2.“unbanked”のAFSIs利用に関する調査; 金融サービスを提供する側だけでなく,利用する側についても明らかにしていく。社会経済的特性によってヒスパニックを類型化し,それに沿って聞き取りを実施する。聞き取りの障害を回避するため研究体制を工夫する。
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