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2013 年度 実施状況報告書

アメリカにおけるunbankedの「経済的包摂」の可能性と課題

研究課題

研究課題/領域番号 24730254
研究機関金城学院大学

研究代表者

大橋 陽  金城学院大学, 国際情報学部, 教授 (70350957)

キーワードアメリカ / 金融排除 / 低所得層 / ヒスパニック / 代替的金融サービス
研究概要

連邦預金保険公社(FDIC)の2009年のレポートによると、全世帯の7.7%に相当する900万世帯、1700万の成人が銀行口座をもたない状態(unbanked)であり、さらに17.9%に相当する2100万世帯、4300万の成人が銀行サービスを十分に受けられない状況(underbanked)にある。とくに急増しているヒスパニックにおいては“unbanked”が19.3%、“underbanked”が24.0%にも上る。 2011年の同レポートでは、2008年世界金融危機の影響で、さらに上の数字が悪化していることが分かった。
経済的格差の拡大と人種・エスニシティの相違を主な要因として、中間層の崩壊と社会的紐帯の切断がアメリカの大きな課題となっている。“unbanked”は、中間層に上昇するのに不可欠な経済的基盤を奪われていることを意味する。“unbanked”の状態にある人々に銀行口座を提供する「経済的包摂」(economic inclusion)が重要課題であるのは、そのためにほかならない。
このような問題の所在に対し、現地調査を軸に、3つの観点からアプローチを行う。第一は、伝統的金融サービス機関(TFSIs)が多くの“unbanked”を生み出した要因を明らかにすることである。これは平成24年度の研究遂行の中で達成できた。第二は、2000年代に入り急増している代替的金融サービス機関(AFSIs)が、いかにして“unbanked”の人々の金融ニーズを満たしているのかを明らかにすることである。これが平成25年度の研究課題であった。平成26年度は、第三の観点、すなわち、TFSIsの「経済的包摂」の取り組みの成果と課題について、実証的に明らかにし、他への適用可能性について理論的に検討することに焦点を絞る。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2000年代に入り急増している代替的金融サービス機関(AFSIs; Alternative Financial Services Institutions)が、いかにして“unbanked”の人々の金融ニーズを満たしているのかを明らかにしてきた。
代替的金融サービス機関(AFSIs)の中でも送金業者を中心的な調査対象とした 。アメリカから中南米への送金額は年間700億ドルに上るが、その95%は銀行を経由せずに送金業者に依存したものである。多くの州の送金業者法は、小切手換金、両替などの業務も認めているので、サービス範囲から言ってもヒスパニックの利用頻度は高い。さらに最大手のウェスタンユニオンがプリペイド式の携帯電話を活用した海外送金サービスをはじめたことに象徴されるように、金融技術と通信技術の融合及び革新は目覚ましい。送金業界の動向について聞き取りを行ったほか、小切手換金店舗など実際にプリペイドカードが売られている場所でも調査、聞き取りを行った。
これらAFSIsの金融サービスは、TFSIsがヒスパニックの“unbanked”を“banked”に転換させるのに大きな示唆を与えるものである 。というのは、「消費者」に近いことによって、どのような金融需要があるかをよりよく知ることができるからである。その需要を満たすために生み出された商品・サービスに問題解決の糸口があると考えられる。

今後の研究の推進方策

TFSIsの「経済的包摂」の取り組みの成果と課題について、実証的に明らかにし、他への適用可能性について 理論的に検討する。TFSIsのなかでも、クレジットユニオンは、小さいながらも独自の取り組みを行っており、 着実に成果を上げている事例が散見される。本研究の調査対象としては差し当たり、地域の異なる次の2箇所を 想定している。
1. ノースカロライナ州ダーラム;ラティーノ・コミュニティ・クレジットユニオン(LCCU)は、2000年の創業から目覚ましい成長を遂げたが、加入者のほとんどが初めて口座をもつ者である。TFSIsがヒスパニックに金融サービスを提供しようと試みている稀な成功例である。CEO兼PresidentのLouis Pastor氏、Vice President(戦略担当)のErika Bell氏には事例研究への全面的な協力を取り付けてある 。
2. カルフォルニア州サンフランシスコ;第一に、地域開発クレジットユニオンの成功例として、ノースイースト・コミュニティ・フェデラル・クレジットユニオンがある 。同市のチャイナタウンに本店をもち、低所得者、ホームレス、移民などへ新規口座開設を促進している。第二に、ミッション・サンフランシスコ・フェデラル・クレジットユニオンは、ペイデイローンに代替するつなぎ資金を、低い金利提供することで支援を広げている。
これらの成功例と他の事例を比較することにより、“unbanked”に TFSIsのサービスを提供する諸条件を明らかにして他への応用可能性を探る。
最終的にはTFSIsとAFSIsのかかわりについても論及せねばならない。AFSIsの資金調達、収益構造にそのかかわりのキーがあると考えられるので、困難ではあるが、そこまで辿りつけるように努めることにする。

次年度の研究費の使用計画

海外調査における航空券の価格は、季節、日にちにより変動が大きい。今回の海外調査では予定よりも航空券が安く入手できたので、残額が生じた。
生じた残額は次年度使用額の一部とし、主として人件費・謝金の一部として使用することで、研究の効率化を図るために用いたい。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2013

すべて 学会発表 (2件) 図書 (2件)

  • [学会発表] 金融排除とフリンジバンキング2013

    • 著者名/発表者名
      大橋陽
    • 学会等名
      アメリカ経済史学会
    • 発表場所
      明海大学
    • 年月日
      20131214-20131214
  • [学会発表] フリンジバンキングの市場と規制2013

    • 著者名/発表者名
      大橋陽
    • 学会等名
      証券経済学会
    • 発表場所
      札幌学院大学
    • 年月日
      20131005-20131006
  • [図書] システム危機の歴史的位相:ユーロとドルの危機が問いかけるもの2013

    • 著者名/発表者名
      矢後和彦、小野塚知二、増田正人、石山幸彦、菅原歩、大橋陽、金子文夫、松本武祝
    • 総ページ数
      169
    • 出版者
      蒼天社出版
  • [図書] 現代アメリカ経済分析:理念・歴史・政策2013

    • 著者名/発表者名
      中本悟、宮崎礼二、瀬戸岡紘、平野健、本田浩邦、朝比奈剛、萩原伸次郎、西川純子、大橋陽、増田正人、田島陽一、飯島寛之
    • 総ページ数
      304
    • 出版者
      日本評論社

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公開日: 2015-05-28  

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