個人の生産性を引き上げるという経路を通じた、教育がもたらす賃金の割増分の程度(以降、教育の収益率)を推定することは、人的資本の蓄積、経済成長、賃金格差などを考える上で重要であると同時に、高等教育に対する財政的な支出をどの程度行うべきかを含む教育政策のあり方を議論するためにも重要である。今年度は、本研究の目的である、学校教育の収益率の推定を行い、その収益率が世代によってどの程度異なるのかの分析を実施した。 サンプルサイズが大きい1982-2007年の就業構造基本調査の個票データを用いて分析した結果は以下の通りである。欧米の既存研究と同様にクロスセクション・データを用いて分析したところ、欧米諸国と同程度に学校教育は賃金格差を拡大させていることが確認された。また、低賃金層における教育のリターンは低下の傾向を持つことも確認された。しかしながら、サンプルを若年層に限定するとそのような傾向は観察されず、中高年層においてそのような傾向が顕著であった。つまり、中高年層においては、教育が賃金格差を拡大させるといえる。また、若年者層のサンプルでコホート別の分析を行ったところ、コホート間で大きな違いは観察されなかった。 これらの分析結果を「教育が賃金分布に与える影響」という論文としてまとめ、第57回OEIO研究会(大阪大学)、2012年度首都大学東京経済学セミナー(首都大学東京)、第15回労働経済学コンファレンス(大阪大学)、人的資本・人材改革研究会(RIETI)において報告した。現在、受けたコメントをもとに改訂しており、2013年度には査読付学術雑誌に投稿する予定である。 日本においては学校教育の収益率についての研究が乏しい上に、どの世代においても収益率は同じであるという強い仮定のもとで推定されてきたが、本研究は世代別の収益率を推定している点が貢献である。
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