本研究の目的は、南アジアにおいて花嫁の親が支払うダウリーが家庭内資源配分、具体的には女性の意思決定権などに与える影響を実証分析によって明らかにし、政策的含意を導くことである。ダウリーは、女児の栄養失調、間引き、中絶、低い教育水準など、家庭における女子の不平等な扱いにつながると言われ、法律で禁止されているが実際は形骸化している。ダウリーの影響はいずれも逸話的なものにとどまっており、経済学的に実証されていないなかで、本研究は実証的基礎を提供するものである。 本研究では、パキスタン・パンジャーブ州全域にわたって、ダウリーおよび結婚慣習に関する農村家計調査を実施し、それを一次データとして実証分析を行い、論文を執筆した。本研究が実証研究としてもつ学術的意義は主に2点である。一つは、質問票において質問の仕方を工夫することで、既存のデータに欠けているダウリー額の正確性を高めたことである。具体的な工夫は、コミュニティでの現在の相場を、現金、貴金属、家畜、家具、キッチン用品、電化製品、などの項目別に聞くことで、個人に支払われたダウリー額についての蓋然性を高めた。もう一つは、ダウリー額を外生的に決定する変数が存在しないというダウリーの実証研究の宿命に対処するため、構造的に個人の家計と関連しない操作変数を作るための質問(具体的には義姉妹の実家が払ったダウリー額と義兄弟の実家が払った婚資額)を取り入れた。推定結果によると、ダウリー額が高いほど、婚家における女性の意思決定権が上昇し、行動の自由も増し、家事労働の負担も軽減することが分かった。 H27年度はこの推定結果をもって、ヨーロッパ人口経済学会、日本南アジア学会などで成果を発表し、研究者たちとの意見交換を経たうえで改稿した論文を海外学術雑誌に投稿した。
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