研究代表者は最近,日本の子の居住地決定や親との同居決定が,きょうだい間の戦略的相互依存から影響を受けていることを見いだした.本研究は,きょうだいのみならず,家族の他の成員の戦略的相互依存関係を理論的に明らかにし,実証分析への展開と社会保障政策や家族政策への応用のための理論的な基盤を確立することを目的とするものである. 最終年度である本年度は,家族間の戦略的相互依存と介護について研究を行い,論文「家族介護は介護者の健康を悪化させるのか?配偶者の親の要介護度を操作変数に使って」としてまとめられ,『季刊個人金融』第2016年11巻1号に掲載された. この論文は,介護保険が導入されて15年が経過した今でも家族介護の果たす役割が大きいことに着目し、家族介護の負担が介護者の健康に悪影響を与えているという仮説を検証したものである.「第1回くらしと健康の調査」を使用し,分析手法は配偶者の親の要介護度を操作変数に用いた操作変数法である.配偶者の親の要介護度は,その親に対して介護を行うかどうかに影響するが,介護者の健康には直接には影響を与えないという事実を利用している. 分析の結果,家族介護の負担が,主要な家族介護の担い手である妻に身体的・精神的に悪影響を与えていることを明らかにした.妻が配偶者の親へ介護をおこなうと、妻の主観的健康感が悪くなり、抑うつ度が限界的ではあるものの高くなるからである.他方で,夫の場合だと,配偶者の親に介護を行なったとしても,主観的健康感や抑うつ度に影響を及ぼさないこともわかった.この結果は,配偶者の親を介護する場合、女性のほうが男性よりも介護負担が健康に悪影響を与えるということを示している.
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