本課題においては、1.従来の動学的一般均衡モデルに企業と金融部門のバランスシートを取り込むことによって、90年代の金融危機・長期不況(いわゆる『失われた10年』)の要因分析を動学的一般均衡モデルの枠組みで行うこと、2.ゼロ金利制約の存在を明示的に考慮に入れたもとでの最適な金融政策のあり方を分析することを研究目的としていた。
まず1.の研究課題についてであるが、80年代から90年代までの日本のマクロデータをもとに動学的一般均衡モデルをデータリッチ法と呼ばれる手法を用いて推計した。その結果、従来重要と目されていた生産性ショックよりはさほど重要ではなく、むしろ労働供給ショックの方が重要である点が明らかとなった。この研究成果については、Journal of Japanese and International Economy等の国際学術誌において公刊された。また、日本のデータではなくカナダのマクロデータを用いて、動学的一般均衡モデルに金融部門を明示的に取り込み、金融部門のバランスシートに与えるショックがどれだけ重要かについての実証分析も行った。
次に2.の研究課題についてであるが、ゼロ金利制約を明示的にモデルに組み込んだうえで、金融政策が各種マクロ変数に効果を発揮するまでにラグが存在するモデルを構築し、そのうえで最適な金融政策関数を数値解析的に求めた。その結果、ラグが存在しないモデルに比して、ラグが存在するモデルでは、当期のみならず前期のマクロ状況を考慮に入れなければならないことが分かった。通常のテーラールールより積極的な金融政策反応となるか否かは前期の経済状況に依存し、たとえば前期・当期で2期連続してデフレ状況が続くようであれば、テーラールールが含意するよりも大きく金利を引き下げる必要がある。本研究成果については国際学術誌に投稿中であり、査読者による判断を待っているところである。
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