以下の理論的・実証的分析を行った。 (1)通貨代替が進展しているかどうかを,時系列パネル手法を用いて相対的貨幣需要関数を推定することで分析した。その結果,通貨代替の程度と名目金利差には長期的な関係が存在すること,名目金利差は通貨代替の程度に有意な正の影響を及ぼしていることが明らかとなった。 (2)通貨代替と為替相場のボラティリティとの関係について,TARCHモデルを用いて分析した。分析の結果,多くの国において,通貨代替の程度が高まると,為替相場のボラティリティが増大すること,いくつかの国においては,カバーなし金利平価ショックが条件付分散に非対称的な影響を及ぼしていることが明らかとなった。 (3)通貨代替の決定要因が通貨代替の程度に与える短期的効果,および長期的効果について明らかにするためにARDLモデルを用いて分析した。分析の結果,外国通貨の支払手段,価値貯蔵手段としての利便性を表す要因ともに通貨代替の決定要因であること,すべての国において,短期的にも長期的にも履歴効果が強く作用していることが明らかになった。なお,(1),(2)についてはチェコ,ハンガリー,ポーランド,アルゼンチン,ペルー,インドネシア,フィリピンの7ヶ国,(3)についてはタジキスタンを加えた8ヶ国を対象とした。 (4)通貨代替型動学的確率的一般均衡モデルを構築し,通貨代替の程度が自国経済,および金融政策に及ぼす影響について分析した。分析の結果,消費と貨幣インデックスが補完的か代替的であるかは,自国の金融政策の方向性には影響を及ぼさないこと,自国の金融政策ショックが自国経済に与える影響は,補完的か代替的かに関わらず,通貨代替の程度の影響をほとんど受けないこと,外国の金融政策ショックの方向性は補完的か代替的かどうかにより異なること,自国経済に与える影響は通貨代替の程度が高くなるほど大きくなることが示された。
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