近年における金融危機の重要な一つの側面は、銀行危機と公的債務危機が同時に起こることである。特に、欧州において銀行危機と公的債務危機の間に悪循環が生じていることが、いくつかの実証研究によって指摘されている。 本研究では、公的債務危機のもとで複数の銀行が預金取り付けに合う理論的枠組みを構築し、銀行危機と公的債務危機がどのようにして互いに影響しているのかを分析した。より具体的には、すべての銀行がその預金をソブリン債に投資しているモデルを構築し、次のような結果を得た。もし、ある銀行において預金取り付けが起これば、当該の銀行は預金の引き出しに対応するべくソブリン債を政府のもとへ行き換金する。もし政府が十分な税収を得ることができなければ、ソブリン債の償還に伴って政府がデフォルトを起こす危険が高まる。結果として、同じソブリン債に投資している別の銀行において、政府がデフォルトを起こすと預金者に対して返済される額が少なくなり得る。従って、ある銀行で預金が引き出されれば政府がデフォルトを起こす見込みが高まり、その結果、同じ国における別の銀行においても預金が早々に引き出され得る。この別の銀行における引き出しは、ソブリン債の償還をさらにもたらし、政府がデフォルトに陥る危険はますます高まる。これらの過程は延々と続く。さらに、このような理論的枠組みの中で政府による最後の貸し手(LLR)機能の効果について検証した。LLR を実行したところで、返済能力はあるが当面の資金を持ち合わせていない銀行における預金取り付けを防ぐことができない可能性がある。さらに悪いことに、そのような銀行に対する公的資金の注入によって、返済能力があり尚且つ当面の資金を持ち合わせている銀行までをも預金取り付けに陥れさせてしまうことがあることを示した。
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