研究課題/領域番号 |
24730267
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤田 真哉 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (80452184)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 金融不安定性 / 景気循環 / 労働供給制約 |
研究概要 |
本年度は,労働供給制約をともなうケインズ型マクロ動学モデルを構築し,H.P.ミンスキーの述べるところの金融不安性がどのような条件のもとで生じうるかを分析した.また,その研究成果を国際学会および国内研究会で報告した. 先行研究では,労働供給制約を考慮しないケインジアン・モデルを用いて,ミンスキーの金融不安定性仮説を記述するという,いわゆる短期分析が主流であった.これに対して本研究では,労働供給制約があるという意味での長期を視野に入れており,資本蓄積率,負債資本比率,資本・効率労働比率という3つの変数が内生的に変化するモデルを構築した.モデル分析の結果,労働供給制約がある経済では,一定の条件のもとで景気循環が生じ,企業の金融構造が脆弱化したり健全化したりするプロセスが交互にあらわれることが明らかになった.本研究の具体的な分析結果は,次の通りである. 第一に,企業の設備投資が当期の内部留保に強く制約されるという現実的な仮定をおくと,資本蓄積率の調整速度が十分に大きいならば,マクロ経済の定常均衡は安定になる.その一方で,調整速度が十分に小さいなら,定常均衡は不安定に,中間的な値をとるときには,リミット・サイクルが生じることが明らかになった.第二に,企業の金融構造は定常均衡においてはミンスキー的な意味で「投機的金融」になるが,定常均衡に至る移行過程においては,それは「ポンツィ金融」に一時的に至るか,あるいは,「投機的金融」と「ポンツィ金融」の間を交互に循環する.第三に,配当性向が低いことや自然成長率が低下していることが,循環の幅が大きくさせることを,シミュレーション分析によって明らかにした.このことは,実体経済が弱い場合には,金融的にも経済が不安定化することを意味している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミンスキーの金融不安定性仮説の核心は,どのような企業もその金融構造が健全な状態からリスキーな状態へと移行する傾向を内在的にもつことを指摘した点にある.しかし,同仮説に関する先行研究では,金融構造が脆弱化するメカニズムについてはあまり考慮されず,マクロ経済の不安定化プロセスが金融不安定性仮説そのものであると同定されていた.これに対して,申請者の平成24年度のモデル分析は,ケインズ型動学モデルをベースにして,どのような条件のもとで金融構造が脆弱化するか(「ポンツィ金融」に至るか)ということと,どのような条件下で経済が金融的に不安定化するかということを,同時に分析できるフレームワークを構築した.この点において,申請者の研究はミンスキーの直観的理解を忠実に理論化していると言える. また,平成24年度には,貸出金利にかかるリスク・プレミアムを内生化したモデルを構築する予定であり,それらの原型はすでに構築されている.ただし,モデルの複雑化ゆえに解析的に分析できない部分については,現在はシミュレーション分析で補っている状況である.この点については,研究の申請段階で予想されていたので,十分に対処可能である. 以上をまとめると,研究の進展はおおむね順調である.
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今後の研究の推進方策 |
金融不安定性仮説に関する多くの先行研究では,内生変数は負債資本比率だけであり,ミンスキーの金融不安定性仮説において最も重要な役割を担う「貸出金利」は一定であると仮定されている.このことを踏まえ,平成24年度における申請者の研究では,貸出金利にかかるリスク・プレミアムを内生化したモデルの原型を構築した.その際,モデルが複雑化しているため,解析的手法を一部放棄することになった.また,平成24年度の研究では,企業の金融構造の性質が,定常均衡とそれに至る過程とのあいだで大きく異なることが明らかになった.言い換えれば,比較静学分析だけでなく,移行動学分析(定常均衡に至るまでのプロセスの分析)も検討に値するテーマであることが明らかになった.したがって,平成25年度の研究では,解析的手法を補完する意味でも,移行過程を分析する意味でも,シミュレーション分析をベースに研究を推進する必要がある. 研究成果が得られた段階で,国内外の学会で報告し,かつ,査読付き雑誌に投稿したいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
ミンスキーの金融不安定性仮説に関する研究の一部は,経済学説史の研究領域において蓄積されている.申請者の所属機関では,該当する学史研究者がいないため,所属機関外の専門家を招聘し,知識の提供およびモデルの妥当性に関するコメントを受ける必要がある.そのため,研究費の一部を謝金として使いたい. また,同仮説に関する研究の一部は,所属機関でダウンロードできる論文の形態だけでなく,書籍の形でも多く公表されている.そのため,研究図書費が必要である さらに,次年度の研究成果を学会(最低年1回)や査読付き雑誌に公表するために,旅費と英文校正費用が必要である.
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