研究概要 |
平成25年度は,欧米で進行していると言われる「金融化financialization」現象の長期的なマクロ経済的効果に分析の焦点を当てた。より具体的には,「金融化」のもとで株主価値の最大化を志向した所得分配が顕著に観察されていることを踏まえ,企業の内部留保率の低下などが企業の金融構造や経済成長率に与える影響を簡易的なケインズ型マクロ動学モデルを用いて分析した。主要な分析結果は,以下のようにまとめられる。 企業の設備投資が内部留保に強く制約されるような状況のもとでは,内部留保率の低下は短期的にも長期的にも資本蓄積率の低下と負債資本比率の増加をもたらす。また,経済に対するマイナスのショックが企業の負債資本比率を一旦上昇させると,企業の財務状況は「投機的金融」と呼ばれる比較的健全な金融構造から「ポンツィ金融」と呼ばれるリスキーな金融構造へと自動的に移行していく傾向を持つことを明らかにした。このような不健全な財務状況から脱するためには,金融政策を通じて貸出金利を抑制することが効果的であることを解析的に示した。 また,研究期間全体(平成24~25年度)では,H.P.ミンスキーの金融不安性がどのような条件のもとで生じうるかを明らかにした。先行研究の多くはモデル上の発散過程と金融不安定性を同定し,企業の金融構造がより危険な状態へ移行する条件を必ずしも解明しなかった。それに対して本研究では,ネガティブなショックが一度与えられると経済が金融不安定化する内在的な傾向を有すること(25年度),及び,労働供給制約がある経済では一定の条件のもとで景気循環が生じ,企業の金融構造が脆弱化したり健全化したりする局面が交互にあらわれること(24年度)を,解析的手法と数値分析を用いて示すことができた。
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