本研究は、貿易と資金調達における為替リスクが新興国に及ぼす影響を分析し、どちらの為替リスクがより深刻な影響を新興国へもたらすのかを明らかにすると同時に、それに基づいてFear of Floatingに直面した経済が採るべき為替相場制度選択の示唆を得ることを目的とするものである。
研究期間の最終年度となる平成26年度は、研究実施計画の研究テーマを1編の英語論文として国際シンポジウムで報告し、その派生として行った研究に関しても学会報告と学術誌への掲載を行った。前者に関しては過年度の研究成果を基にさらに多くの仮定を考慮することで頑健性を確保し、改めて為替相場制度選択に関する比較を行った。その結果、やはり外部資金調達における為替変動の影響は貿易面を通じた影響に比べ大きく、また持続的であるため、それぞれの決済通貨構成比が異なる場合には外部資金調達を安定化する政策を採用することで効率的にマクロ経済を安定化することが可能であることが示された。後者に関しては、近年大きな問題となっているユーロ圏における債務危機の影響下にあり、現実にFear of Floatingに直面している中東欧諸国の労働市場のデータから着想したものであり、信用収縮よって生じた為替変動はこれらの国の労働市場とどのように結びついているかを検証した研究である。したがって、Fear of Floatingの問題であまり指摘をされていなかった労働市場への影響について、本研究テーマを拡張したものであると言える。そうした分析の結果、為替変動は実質賃金の変化を通じて労働市場へと影響している可能性が示され、そうした影響は為替レートの浸透率が低いほど持続的で高い失業率を生み出すことが明らかとなった。
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